16世紀半ばのポルトガル船来港以降、オランダやイギリスが商館を置き、出島ができるまで海外交易で栄えた長崎・平戸。当館は、戦国大名に始まる平戸藩主松浦(まつら)家伝来の資料約3万点を所蔵しています。
中核を成すのが9代藩主静山(せいざん、1760~1841)の収集品で、地球儀とセットで航海に使われた天球儀もその一つ。おうし座の上に見える「北のはえ座」は今は使われない星座。地球儀も、航海用の方角を示す放射状の線が多数あるのが現代のものと違います。
制作したのはアムステルダムのファルク父子の工房で、同工房作の地球儀、天球儀で現存するのは世界で20点ほどです。中でも当館のものは保存状態がよく、銅版画に手で施した彩色が鮮やかに残っています。
静山は1785年に長崎・出島でこれらを買ったと考えられます。平戸が交易でにぎわった時代は過ぎ去っていましたが、静山は舶来の品々や洋書、禁書だったキリスト教関連の書物まで熱心に収集しました。23歳の時、海から引き揚げられた往時のオランダ船のいかりを見たのがきっかけとされています。
平戸の朱印船貿易商・小川家に伝わった「伝オランダ船船首飾木像」は、航海の安全を祈り帆船の船首に飾られた守り神です。塗料がはげ落ちた姿は、苦難の多かった当時の航海の様子をしのばせます。
小川家は江戸時代には寺を開山した有力者でしたが、鎖国下で西洋の木像を所持するのは危険だったはずです。虫食いが多数あり、手入れされていたとは考えにくい様子からも、長く隠し伝えたのではないでしょうか。
(聞き手・山田愛)
《松浦史料博物館》 長崎県平戸市鏡川町12(問い合わせは0950・22・2236)。午前8時半~午後5時半。600円。木像は「平戸オランダ商館」で展示(共通利用券あり)。年末年始休み。
学芸員 久家孝史 くが・たかし 平戸出身。1996年から現職。専門は日本近世史。平戸藩9代当主松浦静山の側室で10代当主の生母、蓮乗院(れんじょういん)の日記を研究。 |