禅僧・仙厓義梵(1750~1837)は40歳前後に博多の聖福寺にやってきたころから絵を描き始めたと見られます。後半生を過ごした博多の人々に親しまれ、当館の仙厓コレクション約200点の多くは地元の収集家から寄贈されました。
親しみやすいタッチで七福神の一人の布袋と子どもたちを描いた「指月布袋図」は住職を隠退後、一般の人々に禅の教えをわかりやすく伝えようと描いたものと思われます。
「あの月が落ちたら誰にやろふかひ」という文章が添えられています。布袋は頭上の月を指さしているようですが、肝心の月の姿はありません。いったいどういうことでしょうか?
実はここでの月とは悟りのことで、どこかにあるはずだが姿の見えない月を探すことは、禅僧が悟りを求めて修行することと似ています。絵を見ながら知らぬ間に禅僧の修行を追体験させられるからくりです。
さらに言えば、左上の空白に注目すると、なんとなく月の輪郭が見えてきませんか。仙厓マジックとでもいえる芸の細かさを感じます。
「あくび布袋図」もかわいらしい布袋さんの絵。似た印象を受けますが、添えられた文章の趣がかなり違います。その意味は「釈迦が亡くなり、次の救世主が現れる様子もない……」。優れたリーダーがいないから世の中が乱れてしまったとダメ出しをしています。
漢字で書かれ経典や論語の知識がないと理解できないことから、学者や自分と同じ僧に向けたものではないでしょうか。
(聞き手・三品智子)
《福岡市美術館》 福岡市中央区大濠公園1の6(問い合わせは092・714・6051)。午前9時半~午後5時半(7~10月の(金)(土)は8時まで。入館は30分前まで)。200円。原則(月)、12月28日~1月4日休み。2点は「これであなたも仙厓通」(来年1月16日まで)で展示中。
学芸員 宮田太樹 みやた・だいき 2015年から現職。中近世絵画、仏教美術を研究。コレクション展示「仙厓展」などを担当。 |