2005年に開館した当館は、実業家・田中寛のコレクションを母体として兵庫県内の焼きものを中心に所蔵。中でも丹波篠山市の丹波焼は全国有数のコレクションがあります。
日本六古窯(ろっこよう)の一つである丹波焼は平安時代末期、常滑焼や渥美焼の技術を導入して始まり、壺(つぼ)や甕(かめ)、すり鉢など主に日用品として使われました。中世の作品は赤茶の地に緑色の自然釉(ゆう)が特徴ですが、近世後期には表面に化粧土を施した白丹波が作られるなど、時代により多彩な姿が見られます。
13世紀前~中期に作られた大型の壺「猩々(しょうじょう)」はコブのような火ぶくれが珍しく、焼成中に灰が付着する自然釉が底まで流れ落ちた様子が力強さを感じさせます。銘は旧蔵した丹波古陶館(丹波篠山市)初代館長・中西幸一が謡曲「大瓶(たいへい)猩々」にちなんで名付けました。
その後、写真家の土門拳の手に渡り、土門は「たんこぶ」「こぶたん」と呼んで愛蔵しました。田中が1966年に譲り受けたいと申し出ると土門は思い悩み、「品は天下無二の珍品、安くは売りたくありません」と書いた手紙が残っています。
白い器肌で胴にくぼみを持たせた「色絵桜川文徳利(いろえさくらがわもんとっくり)」は、白丹波の傑作の一つです。白色の化粧土の上に灰釉(かいゆう)をかけた白丹波は、江戸後期の全国的な磁器の流行を背景に、その模倣を意図して作られるようになりました。川面に漂う桜を描いた本作の絵付けは、篠山藩の御用絵師によるともいわれています。
(聞き手・吉﨑未希)
《兵庫陶芸美術館》 兵庫県丹波篠山市今田町上立杭4(問い合わせは079・597・3961)。午前10時~午後6時(入館は30分前まで)。2点はテーマ展「丹波焼の世界」で展示。特別展と共通料金。(月)、展示替え期間休み。
学芸員 岡田享子 おかだ・きょうこ 2007年から現職。27日まで開催中の特別展「やきものの模様 動植物を中心に」など多数担当。 |