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駒澤大学禅文化歴史博物館

菩薩も沙羅双樹も入滅悲しむ

駒澤大学禅文化歴史博物館
「大涅槃図」 望月斎富文 縦213×横225センチ。裏面には幕末~明治の実業家、太田仁兵衛・治兵衛父子が寄贈した経緯が詳しく記されていた
駒澤大学禅文化歴史博物館 駒澤大学禅文化歴史博物館

 駒澤大学の発祥は16世紀末、禅の実践や仏教研究のため曹洞宗寺院内に設立された「学林」にさかのぼります。1882年に「曹洞宗大学林専門本校」となる際には全国の寺院や檀家などからの援助に支えられました。

 釈迦入滅の2月15日に行われる涅槃会に欠かせない「大涅槃図」もそうした寄贈品の一つです。京都の絵師によって描かれ、もとは1763年に東京・品川の天龍寺に納められたもの。縦横とも2メートルを超すサイズは大型といえます。

 画面の中央に釈迦が右脇を下に横たわっています。経典にも書かれている姿勢で、インドではこれが高貴な人の寝方とされています。

 右上には、息子の死が近づいていることを知り、天から降りてきた釈迦の生母・摩耶夫人の一行が描かれています。このあたりは伝説、物語ですね。

 釈迦の後ろ中央あたり、宝冠をつけ金色の肌をした菩薩たちが袖で目を押さえて泣いています。涅槃とは普通の「死」ではなく、全ての煩悩が吹き消された深い悟りの境地。悟りに近づき、それを理解しているはずの菩薩はクールな表情に描かれる場合もあるのですが。

 寝台の周囲の木は沙羅双樹で、8本なのは「八正道」を象徴しています。経典には釈迦が涅槃に入ると、沙羅双樹が真っ白になったという記述があります。右の4本だけ葉が白っぽいのは、悲しみが広がる様子を表現したのかもしれません。

 「一仏両祖像」も開校時に寄贈されたものです。中央に釈迦像、向かって右に曹洞宗を伝えた道元禅師(1200~53)、左に大本山総持寺を開いた瑩山禅師(1264~1325)という曹洞宗ならではの配置です。

(聞き手・三品智子)


 《駒澤大学禅文化歴史博物館》 東京都世田谷区駒沢1の23の1(問い合わせは03・3418・9610)。午前10時~午後4時半(入館は15分前まで)。「大涅槃図」は3月3日まで公開。(土)(日)(祝)ほか大学の定める日休み。2開館日前までに要予約。

むらまつ・てつふみ

駒澤大学仏教学部教授 村松哲文

 むらまつ・てつふみ 「大涅槃図」公開にあたって行ったギャラリートークをYouTubeで視聴可能。

(2022年2月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)