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東洋文庫ミュージアム

「東方見聞録」コロンブスも愛読

東方見聞録 東洋文庫ミュージアム
「東方見聞録」 マルコ・ポーロ口述、ルスティケロ著 1485年 アントワープ刊
 縦20.5×横14.1センチ
東方見聞録 東洋文庫ミュージアム 東方見聞録 東洋文庫ミュージアム

 1924年創設の東洋文庫はアジアの歴史・文化に関する東洋学の専門図書館です。ミュージアムは2011年に開設しました。

 当館の顔である「モリソン書庫」は高さ約10㍍、三方の壁面を埋める巨大な書棚。創設者の岩崎久弥がオーストラリア人ジャーナリストのG・E・モリソン(1862~1920)から購入した蔵書約2万4千冊が並びます。

 中でもマルコ・ポーロ(1254~1324)の有名な旅行記「東方見聞録」はモリソンが熱心に収集し、旧蔵書には約50種もの刊本が含まれます。

 1485年にベルギーのアントワープで出版されたラテン語訳本は「東方見聞録」の印刷本の中でも特に古いといわれています。文頭の文字などを飾る赤い部分は手書きで、活版印刷に先立つ写本の時代の名残と思われます。

 これと同じ刊本を探検家コロンブスも所有していました。そちらはスペインの図書館に所蔵されていて、コロンブスによる書き込みが多数残っています。

 「東方見聞録」はマルコ・ポーロの口述を文筆家ルスティケロがまとめ1298年ごろ世に出ました。原本はイタリア語交じりのフランス語で記述されたと考えられ、それを写したものをもとに複数の系統が生まれました。

 1496年にイタリアのベネチアで刊行された本は、「ベネチア方言本」と呼ばれる系統の刊本としては最も古いとされています。モリソンはほかにも「フランス語写本」や「トスカナ方言本」など異なる系統や言語の本を集めています。

 モリソン旧蔵分も含め東洋文庫は約80種の「東方見聞録」を所蔵しています。ダイジェスト版や説明を補足したものなどそれぞれ大きさも厚みも異なり、そうした比較も興味深いです。

(聞き手・片山知愛)


 《東洋文庫ミュージアム》 東京都文京区本駒込2の28の21(問い合わせは03・3942・0280)。
(前)10時~(後)5時(入館は30分前まで)。900円。(火)((祝)の場合は翌平日)、年末年始休み。

かざき・れな

学芸課長 岡崎礼奈

 おかざき・れな 2010年から学芸員、18年から現職。大学院では日本美術史を専攻。展示企画や普及活動全般を行う。

(2022年5月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)