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富山市ガラス美術館

大切な記憶 保存する素材

「植物の記憶/Subtle Intimacy」佐々木類
「植物の記憶/Subtle Intimacy」 佐々木類 2019年
4点の組み作品。各高さ84×幅44×厚さ1.4センチ=岡村喜知郎氏撮影
「植物の記憶/Subtle Intimacy」佐々木類 「トヤマ・フロート・ボート」 デイル・チフーリ

 戦前、ガラスの薬瓶が盛んに製造されていた富山市は、教育文化・産業振興の柱に「ガラスの街」を掲げます。

 2015年に開館した当館は1950年代以降の現代グラスアートを中心に400点超を所蔵。近年はガラス以外の素材と組み合わせたインスタレーションも増えており、身近なガラスとはまた違った姿に驚かされます。

 佐々木類の「植物の記憶」は、市などが主催する国際公募展「富山ガラス大賞展2021」で大賞を受賞、現在コレクション展で展示中です。

 一見平面的な画面には、真っ白な灰になった植物が並びます。作家自ら採集した草花を2枚の板ガラスで挟み、焼成して仕上げました。フレームに設置したLEDライトに照らされ、花びらの重なりや葉脈、植物から発生した気泡まで繊細に浮き上がります。

 海外から帰国した時に抱いた「日本に対する懐かしさの欠如」をきっかけに取り組んだという佐々木。植物を記憶の象徴、ガラスを「保存のための素材」と捉えた独自の視点が評価されました。

 「トヤマ・フロート・ボート」は当館のために作られた常設作品です。浮き玉をイメージした吹きガラスの「フロート」は、手のひらサイズから抱えるほどの大きさまで117個。地元の神通川で漁に使われていた木造のささ舟と合わせ、豊かなガラスの色彩が展示台に映り込む様子は幻想的です。

 デイル・チフーリは60年代アメリカでおこった「スタジオ・グラス運動」を代表する作家の一人。チームによる制作スタイルで、大規模な作品を手がけています。この作品も95個のフロートを市内の「富山ガラス工房」で共同制作。富山で開発された色ガラスも採用されています。

(聞き手・渡辺鮎美)


 《富山市ガラス美術館》 富山市西町5の1(電話076・461・3100)。
(前)9時半~(後)6時((金)(土)は8時まで。入場は30分前まで)。200円(企画展を除く)。原則第1・3(水)、年末年始休み。

にしだ・しん

学芸員 西田真

 にしだ・しん 1993年生まれ。北海道大学大学院修了。2019年から現職。開催中のコレクション展「グラスアート:三つのフローラ」(11月13日まで)を担当。

富山市ガラス美術館

https://toyama-glass-art-museum.jp/

(2022年6月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)