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安野光雅美術館

旅先の「暮らし」細やかに

オーデンセ 「旅の絵本Ⅵ」(2004年)所収 ©安野光雅美術館
オーデンセ 「旅の絵本Ⅵ」(2004年)所収 ©安野光雅美術館
オーデンセ 「旅の絵本Ⅵ」(2004年)所収 ©安野光雅美術館 スペイン階段 「繪本 即興詩人」(2002年)所収 ©安野光雅美術館

 「ふしぎなえ」や「旅の絵本」シリーズ(全10冊)で知られる安野光雅(1926~2020)が生まれ育った島根県津和野町にある当館。現在、童話作家アンデルセンの故郷デンマークを題材とした「旅の絵本Ⅵ」と、アンデルセン原作で同じ津和野出身の森鷗外が訳した「即興詩人」に刺激を受けた「繪本 即興詩人」の原画を中心に展示しています。

 「旅の絵本Ⅵ」から紹介するオーデンセはアンデルセンが生まれた町です。青い壁面の建物はアンデルセンの博物館、右側は彼が堅信礼を受けた聖クヌート教会です。教会の前には、白い衣装を身につけた堅信礼後の子供たちが描かれています。

 画面中央の露店には靴が並び、女性が品定め。アンデルセン童話「赤い靴」を想像させます。博物館の奥の屋根のコウノトリも、アンデルセンの童話を下敷きにしています。

 博物館の前を走る男は泥棒です。シリーズ1作目に脱獄したシーンが描かれた泥棒で、まだ逃げ回っているんですね。

 アンデルセンの自叙伝的小説を森鷗外が訳した文語体の「即興詩人」に安野が出会ったのは20代半ばごろ。後に魅力にほれ込み、物語の舞台イタリアを訪ねて描いた絵に紀行文をまじえた「繪本 即興詩人」を作りました。

 ローマのスペイン広場の階段は、主人公にとって母やおじとの思い出の地であり、物語が始まる場所です。今では観光客や出店でごった返すスポットですが。

 安野が旅して描いた作品は単なるスケッチではありません。想像やイメージをふくらませ、世界中どこにもある「人々の暮らし」を描こうとしました。細部まで緻密に描き込まれた作品には温かいまなざしが感じられます。

(聞き手・鈴木麻純)


 《安野光雅美術館》 島根県津和野町後田イ60の1(問い合わせは0856・72・4155)。午前9時~午後5時(入館は15分前まで)。800円。原則(木)休み。
 2点は「人々の暮らしの詰まった『旅の絵本』展第2期 作家たちのあしあと」(~9月7日)で展示。

ふくはら・きょうこ

学芸員 福原京子

 ふくはら・きょうこ 2018年から現職。展示企画や安野光雅作品の普及活動全般を手がけながら、作品の魅力を探究する。

(2022年6月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)