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夏の手ぬぐい 細辻伊兵衛美術館

老舗綿布商 手ぬぐい毎年100柄

「ビーチのハント」 1933年 10世細辻伊兵衛 約90×約35センチ
「ビーチのハント」 1933年 10世細辻伊兵衛 約90×約35センチ
「ビーチのハント」 1933年 10世細辻伊兵衛 約90×約35センチ 「縁起づくし絵」 江戸時代末期 8世細辻伊兵衛 約35×約90センチ

 細辻伊兵衛は1615年創業の京都の綿布商・永楽屋の14代にわたる当主の名。その名を冠した当館は、日本の小幅木綿文化を国内外に伝えるため2022年4月に開館し、江戸時代から現在までに発表した手ぬぐいを展示しています。

 「ビーチのハント」は、10世細辻伊兵衛(1882~1943)が発表したモダンな1枚です。水着姿の女性とたばこをくわえた男性を、絶妙な距離感で描いています。遠くの浜でくつろぐ人たちと足元のカニで、画面に奥行きを出しているのもおもしろいですね。

 10世は手ぬぐい事業に力を入れ、昭和初期には毎年100柄以上作りました。日常風景などを題材に遊び心を感じる変わったデザインも多くあり、収集家たちをうならせたそうです。

 平織りの木綿地に型紙を置いてのりをひき、染料を注ぎ込む注染で染められています。女性の水着のおしり部分に多少のずれがあるのも、手作業ならではの味になっています。

 8世(1852~1901)の代に発表した「縁起づくし絵」は、鮮やかな青地に2枚の額絵が描かれています。資料が残っていないので定かではないのですが、右は富士山、左はスズメとツバキの花。額縁の矢羽根は、射た矢は戻ってこないことから婚儀などで縁起がよいとされました。

 こちらは生地に型紙を置いて1枚ずつ手染めした型友禅です。染料とのりを混ぜた「色のり」で直接染める染色方法で、当時の最高峰の染色技術がうかがえます。

 当館では中学生以上のチケットとして私がデザインした手ぬぐいをお渡ししています。洗う度に柔らかくなじんでいく手ぬぐいを日常生活に取り入れていただけたらと思います。

(聞き手・片山知愛)


 《細辻伊兵衛美術館》 京都市中京区室町通三条上ル役行者町368(問い合わせは075・256・0077)。(前)10時~(後)7時(入館は30分前まで)。2点は夏季特別展(31日まで、無休)で展示中。千円(中~大学生は学生証提示で100円引き)、小学生以下300円。

じゅうよんせい・ほそつじ・いへえ

館長 14世細辻伊兵衛

 じゅうよんせい・ほそつじ・いへえ 1964年滋賀県生まれ。永楽屋14代当主。アーティストとしても活動する。

(2022年8月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)