愛媛大学ミュージアムでは現在、「聖地へのあこがれ」と題して四国遍路・世界の巡礼研究センター所蔵の絵画・史料を展示しています。「聖地」とは何か、その成り立ちや変容、人々の信仰の歴史についてひもとく内容となっています。
「象頭山参詣道紀州加田ヨリ讃岐廻幷播磨名勝附」は、香川県の象頭山に鎮座する金毘羅大権現(金刀比羅宮)への信仰が広まった江戸時代に発行された案内図です。
左下に「大坂」とあるように近畿地方から見た方角で作られています。金毘羅大権現のほかにも多くの寺社の名や、城の絵が描き込まれ、右上には広島の宮島、岩国錦帯橋も。金毘羅大権現にお参りした後は讃岐一帯から広島や岩国まで足を延ばすという、今でいうツアーコースが提案されているのです。
高松―大坂四十里など距離が書き込まれ点線で示された航路はおそらく、この図の制作者と提携した業者のものだと思います。宗教上の重要な地点を巡る聖地巡礼が観光的な要素を強めていく、今につながる変化がよく表れています。
四国の聖地巡礼といえば、弘法大師空海ゆかりの八十八カ所霊場をめぐる四国遍路ですが、多くの霊場の発祥にかかわるのが「役行者前鬼後鬼図」に描かれた役行者(役小角)です。
7世紀の人物で、各地の山中で修行を重ね、修験道の創始者として信仰を集めました。鬼神をも従えたとされ、鬼とともに描かれることが多いです。
四国遍路は空海も行ったような「辺地修行」に由来します。長い歴史の中で庶民化し、役行者や空海ゆかりの場所などを巡る形へと変化しました。お遍路さんをもてなす「お接待」文化も江戸時代には行われていたことがわかっています。
(聞き手・三品智子)
《愛媛大学ミュージアム》 松山市文京町3(問い合わせは089・927・8293)。午前10時~午後4時半(入館は30分前まで)。2点は2023年4月1日まで展示予定。日祝、8月16日、大学の定める日休み。要予約。
愛媛大学四国遍路・世界の巡礼研究センター長、法文学部教授 胡光 えべす・ひかる 愛媛県西条市出身。専門は日本近世史。 |