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やないづ町立斎藤清美術館

「会津の画家」 故郷への思い

「柿の会津(38)」 1996年 紙、木版 52.8×38.0センチ
「柿の会津(38)」 1996年 紙、木版 52.8×38.0センチ
「柿の会津(38)」 1996年 紙、木版 52.8×38.0センチ 「会津の冬(安久津)」 1972年 紙本墨画 40.0×58.5センチ

 現代日本版画を代表する画家、斎藤清(1907~97)。彼が晩年を過ごした福島県柳津町に当館は開館しました。没後・開館25年の今年度は特別企画「大コレクション展」を開催、所蔵品を1年かけて全4期、11のテーマで紹介しています。

 12月25日までの第III期のテーマは「会津人にして、異郷人」。会津を描くことをライフワークとし、「会津の画家」の印象が強い斎藤ですが、暮らしたといえるのは出生地の会津坂下町で過ごした4歳までと、晩年の10年間のみ。雪国の生活の大変さを知らない自分が会津を描くのは「申し訳ない」と葛藤もあったようです。

 ずっと会津に住んでいたら、この感情は出てきませんよね。生まれ故郷に対する複雑な思いが、作品に深い余韻をもたらしているのだと思います。

 柿の枝が複雑に曲がりくねった形が面白いと取り組んだ「柿の会津」は、とりわけ人気の高いシリーズです。枝が偶然織りなすフォルムに主眼を置きながらも、背景に広がる晩秋の会津のたたずまいがノスタルジックな雰囲気をかもし出し、見る人を魅了します。斎藤の作品は郷愁を誘う点も特徴ではありますが、「柿の会津(38)」に見られるような構図やフォルムの面白さこそ、斎藤が生涯をかけて追求したものであり、魅力なのです。

 「会津の冬(安久津)」は墨画の作品です。家々の屋根や木々の枝に降り積もった雪の描写など、技量のさえを感じさせます。墨画は1960年代後半から独学で手がけました。にじみやぼかしを駆使し、対象の精神性までをも捉える斎藤の墨画には、版画とは異なる見どころがあります。

(聞き手・伊東哉子)


 《やないづ町立斎藤清美術館》 福島県柳津町柳津下平乙187(問い合わせは0241・42・3630)。[前]9時~[後]4時半(入館は30分前まで)。「柿の会津(38)」は23日まで、「会津の冬(安久津)」は11月26日~12月25日展示。510円。原則[月]、年末年始休み。

 学芸員・伊藤たまき いとう・たまき 筑波大学大学院人間総合科学研究科芸術学専攻修了。会津若松市教育委員会勤務などを経て、2017年から現職。

(2022年10月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)