日本の文化や文学を世界に広めたドナルド・キーン(1922~2019)。新潟県柏崎市にある当館は、その功績や人柄を顕彰するため2013年に開館しました。一番の見どころは、キーンが約40年暮らしたニューヨークのアパートの書斎と居間を再現した復元展示室です。
キーンは1960年ごろから東京とニューヨークの住まいを行き来していましたが、88歳を過ぎて、半世紀以上教えた米コロンビア大を去って日本に永住すると決めました。
同大近くのアパートの荷物はすべて処分するつもりでしたが、日本の文化や文学に関する発信基地でもあった部屋の品々を処分してしまうのは忍びないと、柏崎の菓子メーカー・ブルボンが保管を提案しました。
柏崎との縁は、古浄瑠璃「越後国柏崎 弘知法印御伝記」の上演がもたらしました。国内で失われていた台本がロンドンで発見されていたことをキーンが紹介、中越沖地震被災後の柏崎で復活上演の機運が高まり、ブルボンの協力で実現しました。
書斎と居間は広さや天井の高さはもちろん、本の並び方までアパートを引き払った11年8月31日のままに再現しています。ガラス扉も部屋の所有者であるコロンビア大と交渉の結果、提供してもらうことができました。ガラスは100年もので、非常に慎重に運ばれました。
本や家具などもNYで使っていた実物です。東洋風の柄のじゅうたんはキーンが子どものころ、貿易商だった父が買ったもの。最初は毛足が長く、泳いで遊んだ記憶があるそうです。家族の思い出がつまった品を見てもらえることを喜んでいたキーンは、「窓の外にあるハドソン川だけは持ってくることができませんでした」と話していました。
(聞き手・三品智子)
《ドナルド・キーン・センター柏崎》 新潟県柏崎市諏訪町10の17(問い合わせは0257・28・5755)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。500円。月火、12月26日~3月31日休み。
事務局学芸係 石黒登志子 いしぐろ・としこ 大阪芸術大学卒。2018年から現職。企画展「高木四郎~ドナルド・キーン京都留学時代の知られざる交流~」などを担当。 |