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京都府立京都学・歴彩館

情報満載 鳥の目でパノラマ

京都府立京都学・歴彩館
「名古屋市」 1936年発行 約18×約77センチ
京都府立京都学・歴彩館 京都府立京都学・歴彩館

 「大正の広重」と呼ばれた吉田初三郎(1884~1955)は、観光名所や鉄道沿線の鳥瞰図(ちょう・かん・ず)を多く描いたことで知られます。出身地の京都市にある当館は、市内の郷土玩具収集家からの寄贈品など約270点の作品を所蔵しています。

 視野の広いパノラマ表現が際立つ「名古屋市」は、1937年に名古屋港近くで開かれた「名古屋汎太平洋平和博覧会」に先立ち、折り畳み式の観光マップとして作成されました。

 名古屋市街地を中心に、右に伊勢神宮や富士山、左は下関、朝鮮半島まで収めた大きな構図に山、川、道路や鉄道、建物がまさに鳥の目で見たように描かれています。空撮やカラー印刷がまれな時代、観光や旅行が身近になり始めた庶民の間で人気を博したのもうなずけます。

 地名も詳しく書き込まれ、名所は赤い地色で目立たせています。名古屋城、熱田神宮、大須観音など今も人気の名所に加え、知多半島のサンドスキー場など現存しないものもあります。工場や浄水場といった近代的施設をしっかり描いてあるのも特徴で、今と比較する楽しみがあります。

 「京都名所大鳥瞰図」は、28年に京都で行われた昭和天皇の即位礼を記念して京都府が発注した印刷用絵図の原画です。昭和天皇は皇太子時代、初三郎の「京阪電車御案内」を称賛。初三郎が多くの鳥瞰図を手がけるきっかけになりました。印刷時の色指定と思われる文字や、道路部分など塗りつぶして描き直した跡は、原画ならではの魅力です。

 約1600点もの鳥瞰図を制作した初三郎は多くの弟子を抱え、実際に筆を執るのは弟子たちだった部分も多いと考えられます。しかし「初三郎式鳥瞰図」の成果は、入念な調査やスケッチで情報を集め、描くべきものや構図を決定した初三郎あってのことだと思います。

(聞き手・鈴木麻純)


 《京都府立京都学・歴彩館》 京都市左京区下鴨半木町1の29(問い合わせは075・723・4831)。[前]9時~[後]9時([土][日]は5時まで)。「名古屋市」(京の記憶アーカイブ)は館内の京都資料総合閲覧室またはオンライン「デジタルアーカイブ(公開)まとめて検索(公開) (archives.kyoto.jp)」で閲覧可能。「京都名所大鳥瞰図」は常設展示(時間は問い合わせを)。無料。[祝]、第2[水]休み。

わかばやし・まさひろ

課長補佐 若林正博

 わかばやし・まさひろ 2011年から前身の京都府立総合資料館勤務。専門は伏見学。吉田初三郎に関する講演やコラム執筆も。

(2023年5月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)