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東京都庭園美術館

アールデコの館 香りのもてなし

「香水塔」 1933年ごろ 高さ約2・18メートル

 1933年、旧皇族の朝香宮家の自邸として建てられた当館の本館は、賓客をもてなす広間や客室からプライベートの居間や寝室まで全館にわたりアールデコ様式の意匠を凝らした建築で、それ自体が美術品といえます。

 館のシンボルともいえる白磁の「香水塔」は、大広間と大客室をつなぐ次室(つぎのま)に置かれた室内用噴水器。フランスの室内装飾家アンリ・ラパンのデザインです。杯のような本体の下から水を吸い上げ、上部の噴水口を通じて水をしたたらせる仕組みです。最上部の渦巻きは照明で、その熱を利用してここに香水を垂らし、室内に香らせました。

 朝香宮邸にアールデコが採り入れられたのは、軍人として留学した鳩彦(やす・ひこ)王が允子(のぶ・こ)妃とともにフランスに滞在した際、25年にパリで開かれた「アールデコ博覧会」を訪れたのがきっかけといわれます。

 特に允子妃は、フランスからの手紙を辞書を片手に翻訳するなど宮邸建設に積極的にかかわりました。一方で全体の設計にあたった宮内省内匠寮や施工した職人らの技術もこの建物を支えています。

 香水塔のある次室もラパンがデザインしました。アールデコの特徴として「左右対称、反復、幾何学的」が挙げられますが、この部屋はどの方向から見ても左右対称で、その意味でもアールデコらしいといえるでしょう。

 83年の開館以来、建物自体の魅力を紹介する建物公開展を行っています。今年は併せて皇室や宮家で慶事の引き出物として使われる小型の菓子器ボンボニエールを展示しています。

 「複葉機形ボンボニエール」は朝香宮家の長男、孚彦(たか・ひこ)王の成年を記念したものです。欧州から明治期に伝わったボンボニエールは大正から昭和初期にかけて特にデザインが多様化。この作品も、後に飛行機乗りになった孚彦王にちなんで作られました。

(聞き手・深山亜耶)


 《東京都庭園美術館》 東京都港区白金台5の21の9(電話050・5541・8600)。午前10時~午後6時(入館は30分前まで)。ボンボニエールは6月4日まで展示中。予約制。原則(月)、年末年始休み。

 東京都庭園美術館
 https://www.teien-art-museum.ne.jp/

じん・あかり

学芸員 鶴三慧

 つる・みさと 早稲田大学文学部卒。世田谷美術館学芸員を経て、2021年から勤務。専門は西洋美術史。

(2023年5月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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