マンガ資料の収集・保管・公開と調査研究を行っている当館は、マンガ雑誌を時代ごとの社会や人々の思想を知る一次資料と捉え、その収集に力をいれています。
「団団珍聞」は、日本のマンガ雑誌文化を形づくるさきがけとなった週刊誌です。発行人は旧広島藩士でジャーナリストの野村文夫(1836~91)。英国留学経験もあった政府の官吏でしたが辞職、自由民権運動の盛り上がりを背景に77年に創刊しました。「団団」は政府による言論弾圧を逃れるため新聞などが使っていた伏せ字(●●)を意味します。
洋画家・本多錦吉郎の表紙画は中央に3人の男性の姿が描かれています。それぞれ耳に手を当て、望遠鏡をのぞき、巨大なペンを手にした姿は「よく聞いて、遠くのものを見て、書いてやるぞ」というジャーナリズムの気概を表したものです。実際、その反骨精神から何度も発行停止処分を受けました。
特に初期には、藩閥政府を批判するなどした風刺画が主に掲載されました。一方でエンターテインメント的要素もバランスよく取り込み、読者の人気を得ました。約30年続いたこの雑誌は、投書欄の常連で後に「滑稽新聞」を創刊した宮武外骨など、多くのフォロワーを生んだことでも多大な貢献を果たしました。
少女向け隔月刊誌「JUNE」はボーイズラブ(BL)というジャンルも言葉もなかった時代、少年同士の恋愛を描いた作品に焦点をあてました。打ち出したのは「耽美の世界の追求」。発禁処分を受けるというような時代ではなかったにしろ、前例のない雑誌の創刊は世の中への挑戦であり、その反骨精神は「団団珍聞」にも通じるところがあります。また読者の投書が盛んで、多くの後進作家を育てた点も共通しています。
(聞き手・片山知愛)
《京都国際マンガミュージアム》 京都市中京区烏丸通御池上ル(☎075・254・7414)。(前)10時半~(後)5時半(入館は30分前まで)。900円。(水)((祝)の場合は翌平日)休み。
京都国際マンガミュージアム
https://kyotomm.jp/
学芸員・倉持佳代子 くらもち・かよこ 2008年から現職。主に少女マンガを中心に研究し、展示・イベントを多数企画。近著に「かわいい! 少女マンガ・ファッションブック」(立東舎)。 |