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軽井沢安東美術館

再びパリへ 藤田の解放感映す

「猫の教室」1949年 油彩・キャンバス
© Fondation Foujita / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 E5272

 「乳白色の肌」で一世を風靡し、エコール・ド・パリを代表する画家の一人として知られる藤田嗣治(1886~1968)。当館は、投資ファンド会社会長の安東泰志が約20年かけて収集し、自宅に飾っていた約180点の藤田作品を所蔵、展示するため2022年秋に開館しました。
 一般公開は34年ぶりとなる「猫の教室」は1949年、10カ月間滞在した米国で描かれた作品で、動物の擬人化をテーマに藤田が描いた作品群のうちの1点です。
 教壇に立つ先生を前に発言する優等生がいるかと思えば、よそ見をしたりほおづえをついたり、机の陰で居眠りしたりする猫も。骨をくわえた「早弁」猫の後ろではけんかが始まっています。それぞれ表情が細かく描き分けられ、ほほえましいですね。
 1920年代にパリで成功を収めた藤田は、日中戦争、第2次世界大戦が始まると従軍画家として戦争画も描きました。戦後、そのことが国内で批判を浴びるなどし、故国から逃れるように再びパリへ向かいました。
 その途中に立ち寄ったのが、この作品を描いたニューヨークで、日本から遠く離れ、自由に描く喜びとあふれんばかりの生命力を絵の中に落とし込んでいます。鬱屈から解き放たれ、人生の再出発を決意した節目の時期に描かれた絵だと思います。
 「自画像」は、「乳白色」で注目を集めて間もない頃の作品で、おかっぱと丸眼鏡の容姿は見慣れた人も多いでしょう。藤田はパリにいる多くの画家の中で自分を明確に差別化することをめざしました。特徴的なスタイルは、その中で編み出した自己演出方法と言われています。
 左上に描かれた鍵は、ヨーロッパでは忠誠を表すとされます。2番目の妻と一緒に同じ年に描かれた自画像と構図が酷似していることから、妻への忠誠とも、絵画への忠誠とも考えられます。

(聞き手・中山幸穂)


 《軽井沢安東美術館》 長野県軽井沢町軽井沢東43の10(☎0267・42・1230)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。2300円。2点は常設展示だが、他館貸し出し期間もあり。(祝)を除く(水)、年末年始、1月中旬と2月下旬休み。

 軽井沢安東美術館
 https://www.musee-ando.com/

みずのまさみ

館長 水野昌美 さん

 みずの・まさみ 美術館の企画・運営・コンサルタントを手掛ける会社の代表取締役として開館準備に関わり、開館に際して現職に就任。国内外の藤田嗣治展の企画協力に多数関わっている。

(2023年7月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)