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古代エジプト美術館

華やかな色使い 来世への望み

「黄金のマスク」 紀元前1世紀~紀元後1世紀ごろ 縦約37×横約21センチ
「黄金のマスク」 紀元前1世紀~紀元後1世紀ごろ 縦約37×横約21センチ
「黄金のマスク」 紀元前1世紀~紀元後1世紀ごろ 縦約37×横約21センチ 「サソリのパレット」 紀元前3200年 縦25・5×横45・0センチ

 小学生の時、親に連れられて見たギザのピラミッドやツタンカーメンの棺(ひつぎ)に魅せられたのがエジプトとの出会いです。証券会社に勤めながら古代エジプト遺物を集め、千点以上になりました。2009年に渋谷駅に近いビルの一室に当館を設立し、常時100点以上を展示しています。
 華やかで色使いが美しい「黄金のマスク」はミイラにかぶせて埋葬されたものです。金箔(きん・ぱく)が貼られていることから位の高い人と思われます。顔は本人に似せる場合もありますが、基本的には時代ごとの様式に沿っています。このマスクの時代は小顔がはやっていました。
 両肩の下に人物像が描かれています。向かって左側の2体は、古代エジプトで最も広く信仰された女神イシス(左)にこのマスクの被葬者が「来世で生き返らせてください」と祈願する姿です。右側には死者を守るという犬の神アヌビス(左)とイシスの妹ネフティスが描かれます。
 あごの左右の鳥はハヤブサで、地平線を守るホルス神と思われます。ハヤブサの足元が地平線を示し、マスクの金色に輝く顔はその上にあります。これは、太陽が昇るように来世で生き返ることを意味しています。
 年1回の氾濫(はん・らん)が天然の肥料をもたらすナイル川と降り注ぐ太陽に恵まれたエジプトは、豊かで平和な場所でした。寿命が短かった当時の人々は「もっと生きたい」と思い来世を望んだのではないでしょうか。
 「サソリのパレット」は古代エジプトが統一される直前、南側の上エジプトを支配したスコルピオン1世のものと推定されます。パレットは鉱石をすりつぶしてアイライナーやアイシャドーを作るための道具ですが、これは化粧道具としてはサイズが大きく、儀式に使っていたと考えられます。
 「黄金のマスク」の大きな目に青いアイラインが施されているように、当時の人々も同様のメイクをしていました。目は悪霊の入り口とされており、魔よけの意味もありました。

(聞き手・深山亜耶)


 《古代エジプト美術館》 東京都渋谷区神南1の12の18の801(問い合わせは03・6809・0718)。開館は(土)(日)、正午~午後6時(入館は30分前まで)。サソリのパレットは20日までいわき市立美術館(福島県)で展示。年末年始休み。

 ◆古代エジプト美術館
 http://www.egyptian.jp/top.html

みずのまさみ

ファウンダー 菊川匡 さん

 きくがわ・ただし 東京理科大学総合化学研究科総合化学専攻博士課程修了。2009年に古代エジプト美術館を開設。専門は考古化学。

(2023年8月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)