当館は、戦前の旧満州(中国東北部)で寄生虫研究に従事した医師で医学博士の亀谷了(1909~2002)が、公衆衛生の啓発を目的に1953年に創立しました。寄生虫の分類、形態、生態などの研究を行い、人体との関わりや寄生虫の多様な姿を約300点の標本と資料で紹介しています。入館無料ですが、ご来館の際は寄付へのご協力をお願いしています。
亀谷がその研究をライフワークとし、当館のロゴマークのモチーフにもなっているのがX字形のフタゴムシ。条虫類のサナダムシに近い単生類に分類されます。
体長1㌢ほどのフタゴムシはコイ科の魚のエラに寄生します。卵からかえった幼生は繊毛運動により魚のエラに泳ぎ着き、吸血して生活しながら、エラの上を活発に移動してペアになる相手を探します。
運良く相手が見つかると、雌雄同体の幼生2匹が交差するように合体し一体化することで成長・性成熟が始まるのがフタゴムシの大きな特徴。お互いの生殖器を結合して精子を交換し、卵を産み、一生離れません。
合体できなければ成長も性成熟もしません。この生態は、新たな幼生がやってくる次のチャンスを待てる、という意味で理にかなっているといえるかもしれません。
ダニの一種、ツツガムシの拡大ろう模型は、北里研究所の技師だった沼田仁吉(1884~1971)が製作しました。
寄生虫学者・宮島幹之助の助手として1911年にドイツで開かれた国際衛生博覧会に参加した沼田は、ヨーロッパで全盛期だった医学教育用のろう模型作りに魅了されました。一人ドイツに残り、4年間滞在して技術を習得。戦後旧満州から引き揚げ、診療所を開いていた亀谷と患者として知り合い交流を深めたようで、当館の役員も務めました。開館まもない当館にろう模型が寄贈され、現在35点を所蔵しています。
(聞き手・千葉菜々)
《目黒寄生虫館》 東京都目黒区下目黒4の1の1(問い合わせは03・3716・1264)。午前10時~午後5時。無料。(月)(火)((祝)の場合は開館し直近の平日)休み。
目黒寄生虫館
https://www.kiseichu.org/
館長 倉持 利明 くらもち・としあき 1955年生まれ。国立科学博物館動物研究部で魚類・鯨類の寄生蠕虫(ぜんちゅう)の分類・生物地理を研究。2021年から現職。 |