当館は、自然の不思議さを多くの人に伝えたいと初代館長の植本十一が、鉱物学者の益富寿之助博士の協力を得て1971年に開館しました。館名の「奇石」は文字通り奇妙な石。理科分野のなかでも地味な「石」や「地学」を楽しく学んでもらおうと約2千点の石を見た目やテーマで分類して展示しています。
ハート形の「夫婦水晶」は、二つの単結晶が一定の条件で接合してできる双晶の一種です。二つの結晶は必ず84度33分の角度でくっつきます。
奈留島(長崎県)産の夫婦水晶は数㌢から数十㌢の薄い石英脈中の、小さく膨らんだ「晶洞」から見つかります。晶洞の内部は粘土で満たされ、その粘土の中に小さな夫婦水晶が埋もれています。
数十も折り重なるように発見されることもあり、奈留島にしか見られない産状です。特徴的な平たい形も含め、なぜそうなるかよくわかっていません。
地下水中の二酸化ケイ素が六角柱状に結晶して固まった水晶は世界各地にありますが、双晶はかつて日本から多く産出しました。明治時代にドイツの岩石研究者・ゴールドシュミットが「日本式双晶(ジャパニーズツイン)」と名付け、世界にも知られるようになりました。
まんじゅうにそっくりの「饅頭石」は、江戸時代から鳥取の大山付近での産出が知られます。京都のお菓子「五色豆」の中のニッキ味の豆に似ていることから、地元では「一色豆」とも呼ばれています。
火山活動で噴出した軽石に含まれる黒雲母が分解、鉄やマンガンの酸化物が凝集して中心部の「あんこ」に。その周りに酸化アルミニウム(アルミナ)に富むギブサイトという鉱物が凝集し、きなこをまぶしたような表層部ができます。火山の多い日本では全国各地で見つかりますが、産地によって大きさが違います。
(聞き手・千葉菜々)
《奇石博物館》静岡県富士宮市山宮3670(☎0544・58・3830)。午前9時~午後4時半(入館は30分前まで)。700円。水(祝の場合は翌日)休み。年末、冬季休業あり。2024年4月7日まで企画展「Birth Stone 誕生石展」開催中。
奇石博物館
http://www.kiseki-jp.com/
副館長 北垣 俊明 きたがき・としあき 1961年生まれ。日本大学文理学部で応用地学を専攻。卒業後は同大で6年間副手を務め、90年から同館勤務。 |