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山形県立博物館

国内最大 顔のない「女神」

山形県立博物館
「縄文の女神」 縄文中期(約4500年前) 高さ45×幅1㎝、重さ3.155㎏ 国宝
山形県立博物館 山形県立博物館

 イギリスの大英博物館に展示されたこともある土偶「縄文の女神」は1992年、山形県北部の舟形町の西ノ前遺跡から出土、2012年に国宝に指定されました。当館ではそれを機に専用展示室を設け、常設展示しています。

 高さ45センチは国内の完形の立像土偶として最大です。土偶には15センチ程度の小さいものも多く、例えば狩猟の際に「お守り」として携帯したという説があります。それに対して「縄文の女神」は集落の祭りなどでみなに見える場所に置かれたものかもしれません。

 発見時は、壊れた土器の捨て場だった沢の跡の半径5~6メートルの狭い範囲から五つの部分に分かれて出土しました。一般に破片で見つかる土偶は故意に壊して捨てられたと考えられます。その理由は諸説ありますが、病気やけがの部位を折ることで治癒を祈願した可能性もあります。

 W字形で二重線にふち取られた乳房、後ろに突き出た「出尻(でっ・ちり)」、両脚の前後につけられた横線は福島、宮城など南東北の土偶に見られる特徴です。腰回りの装飾は当時の土器と共通する文様です。どっしりした裾広がりの角柱状の脚の底面は3~6センチくりぬかれています。焼成のムラを抑える工夫でしょう。

 ひび割れを防ぐため砂を混ぜてあります。前に突き出た腰に穴があり、のぞくと角度によってピカッと光る石を見つけることができます。

 古い時代の土偶には顔がなく、頭部は皿のように平らでした。次第におかっぱ頭になり、目鼻口が表現されるようになります。どこを見ているのか分からない「縄文の女神」は、顔が描かれる時代に移行する直前の形といえます。

 西ノ前遺跡からはほかにも大小47点の土偶の破片が見つかりました。互いに接合できる部位はありませんでしたが、「縄文の女神」と同一型式で、土偶の形の変化などが分かる「土偶残欠」として国宝附(つけたり)に指定されています。

(聞き手・島貫柚子)


 《山形県立博物館》 山形市霞城町1の8。午前9時~午後4時半(入館は30分前まで)。300円。(月)((祝)の場合は翌日)休み。

  山形県立博物館
  https://www.yamagata-museum.jp/

おしきり・ともき

学芸調査専門員・押切智紀

 おしきり・ともき 東北学院大学文学部卒。2007~16年と20年から勤務。専門は考古学。22年にプライム企画展「女神たちの饗宴(きょうえん) 『縄文の女神』国宝指定10周年」を担当。

(2023年10月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)