タイ古陶と聞いてどんなやきものが思い浮かびますか? 当館で開催中の企画展「永田玄の眼 タイ古陶の美」(1月21日まで)では、コレクター永田玄さんが30年以上にわたって収集した約80点を紹介しています。
長崎県出身の画家を父に持つ永田さんは1952年生まれ。編集や広告の仕事の傍ら80年代からタイ文化に興味を持ち、中でも自然界のモチーフを独特のセンスで表現し、奥深い釉薬の色調が特徴のタイ北部の古陶を買い集めました。
花弁の模様の皿は、タイ北部の主な古窯の一つカロン窯で、「黄金期」といえる15~16世紀に作られたものです。古都チェンマイから北東へ約2時間、今は静かな農業地帯のカロンにはかつていくつか窯がありました。
筆の腹の部分で描いた大胆な鉄絵。中央の花弁をよく見ると、1枚だけ後ろから顔をのぞかせるように小さく描かれています。スペースが足りなくなったのでしょうか。タイ人の会話では「マイペンライ」(何でもない、大丈夫)という言葉がよく交わされますが、そんなおおらかな気質が表れているようです。
永田さんのタイ古陶への情熱や、親しくなった現地の骨董商を通じて入手した時の興奮を追体験し、東南アジアの陶磁器を身近に感じてもらえるよう、本展の作品解説にはご本人の言葉も採り入れています。
解説文に「この壺には驚いた。4面に同じ男の顔がある。口はへの字に曲げているのに、機嫌は悪そうでもない」とあるのは、今のカンボジアやタイなどを支配したクメール王朝時代のつぼで、宗教の儀式で使われたようです。クメール陶磁の最盛期は11~13世紀で、色や形、モチーフなどその後のタイの陶器とは一線を画しています。
(聞き手・佐藤直子)
《長崎県美術館》長崎市出島町2の1(☎095・833・2110)。午前10時~午後8時(展示室への入室は30分前まで)。420円。原則第2・第4(月)、12月29日~1月1日休み。
長崎県美術館
http://www.nagasaki-museum.jp/
学芸員 川口 佳子 かわぐち・よしこ 京都工芸繊維大大学院博士課程修了(英国近代建築史)。 京都の伝統工芸展示の仕事を経て、2012年から現職。 |