古代エジプトの羊角神アモンから名付けられたアンモナイトは、約4億~6600万年前に世界中の海で栄え、恐竜と同じ時期に絶滅しました。約1億年前、白亜紀の海で堆積(たい・せき)した「蝦夷(え・ぞ)層群」が南北を貫く北海道は、世界的な産地の一つで研究も盛ん。当館では展示室を白亜紀の海に見立て、三笠や夕張など道内で発見されたアンモナイト化石約600点を常設展示しています。
巻き貝やカタツムリに似ていると思われるアンモナイトですが、実はイカに非常に近い生物と推測されます。殻の内部は隔壁によっていくつもの小部屋に区切られ、一番外側に1対の目と複数本の触手を持つ軟体部が収容されていました。奥の部屋は浮力を得るための空気タンクの役割を果たします。
「パキデスモセラス属の一種」は直径1メートルを超す、日本最大級のアンモナイトです。雌雄で大きさが極端に異なり、この個体は殻の直径や殻末端のポコッとした膨らみから、卵を産むメスの可能性があります。
直径50センチを超える大型アンモナイトでは渦巻きのへそ(中心部)が残っていることはまれです。へそは殻が薄く、海中に長くさらされると溶けてしまうためですが、この化石は死後の早期に海底の砂や泥に埋もれ、中心まで残ったのでしょう。
「ニッポニテス・ミラビリス」は「素晴らしい日本の石」という意味の、まさに日本を代表する化石です。日本の古生物学の創始者で東北帝国大学名誉教授の矢部長克(ひさ・かつ)が世界で初めて北海道で発見し、1904年に名付けました。
殻が蚊取り線香のように平面らせんの「正常巻き」に対して、一部が立体的なアンモナイトを「異常巻き」と呼びますが、3次元的にU字形が繰り返されるニッポニテスはその中でも奇妙な形です。以前は「進化の限界」と解釈されていましたが、現在ではコンピューターシミュレーションの結果、成長による重心の移動を補正する規則的な変化と考えられています。
(聞き手・島貫柚子)
《三笠市立博物館》北海道三笠市幾春別錦町1の212の1(問い合わせは01267・6・7545)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。450円。原則(月)((祝)の場合は翌平日)休み。
三笠市立博物館
https://www.city.mikasa.hokkaido.jp/museum/
学芸員・唐沢 與希(からさわ ともき)さん からさわ・ともき 京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得後退学。2015年から現職。「映画ジュラシックパークの影響で、化石を研究したいと思いました」。 |