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シルク博物館

刺繡が彩る 町人富裕層の花嫁

振袖 赤綸子地松竹梅に折鶴模様絞繡 江戸時代後期 丈163 裄63.5㎝ 
 横浜・大さん橋近くにある当館は、幕末以来長く横浜港の主要輸出品だった生糸(絹)をテーマに約7千点を所蔵しています。27日から6月2日までの企画展「花嫁衣装 晴れの日の模様と彩り」では江戸期から昭和までの婚礼衣装約40点を展示予定です。
 
 「振袖 綸子地松竹梅に折鶴模様」は江戸時代後期、富裕な町人層の婚礼に使われた花嫁衣装です。白無垢の打ち掛けで式三献(三三九度)を行った後の色直しに着用しました。
 
 紗綾模様を織りだし高価な紅花で幾度も染めた赤色の地に、絹の刺糸で松竹梅や鶴の代わりに折り鶴が描かれています。粒ぞろいの「鹿の子絞り」が技術の高さを感じさせます。
 
 室町時代にかたちづくられた武家の婚礼式法は、江戸時代には町人の富裕層にも広まりました。ただし武家と町人の身分の違いを反映して適宜簡略化され、花嫁衣装にも武家とは違う特徴がみられます。
 
 たとえば白無垢は、武家では織りの生地だったのに対し、町人は綸子を使うことで社会的な地位をわきまえていることを示しました。
 
 また、町人層の結婚では儀式よりも商売上の関係者なども多く招く宴会が重視されました。この振り袖のように刺を用いた華やかな衣装はそうした席に映えたと思われます。金糸が多く使われているのは家の資力を示す役割もあったと考えられます。
 
 現代でも香典や祝儀を包むのに使う袱紗。その一種「掛袱紗」は、元は日除けやちり除けに使われていましたが婚礼道具に含まれるようになり、贈答儀礼が盛んになった江戸時代以降には意匠や技巧を凝らしたものが作られました。
 
 「掛袱紗 鉄地日の丸に牡丹菊鶴亀模様綴織」は、縁起がよいとされた円形の中に菊やボタン、鶴亀をデザイン。一方で周囲の模様は若松や梅が曲線で縁取られ西洋的表現が珍しい一枚です。

(聞き手・佐藤直子)


  《シルク博物館横浜市中区山下町1の2階(045・641・0841)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。500円。原則月曜休み、23~26日休み。

 

シルク博物館

シルク博物館トップ – 一般財団法人シルクセンター国際貿易観光会館 (silkcenter-kbkk.jp)

 

 

いしわたろ・ももこ

学芸員 石渡 桃子

 いしわた・ももこ 共立女子大学大学院家政学研究科博士前期課程修了。

2021年から現職。専門は日本・東洋服装史と染織文化史。
(2024年4月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)