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マコンデ美術館

アフリカ黒檀 自由に彫る

「ドボン」 ジョン・フンディ作 高さ85センチ

 

▼水野誠館長のイチオシ「ドボン」

 

 「最初の父が木を彫って最初の母を作った」という伝説を持つマコンデ族は、アフリカ大陸のタンザニア南部からモザンビーク北部の高原で古くから木彫り芸術を花開かせてきました。日本では1970年の大阪万博で多くの作品が紹介されて以降、マコンデ彫刻の輸入が始まります。

 初代館長である父・水野恒男(1940~2024)とマコンデの出会いは71年。名古屋市内で鉄工所を営んでいたころ、たまたま立ち寄った民芸品店で「生命力のある男性像」を見つけ、「表情が良い」と衝動買い。故・いかりや長介さん似ということから「チョースケ」と名付けました。趣味の写真の被写体にしようと考えたようですが、この1体が図らずもコレクション第1号となりました。

 父のマコンデ熱は高まるばかりで、私が物心つく頃には家はマコンデ彫刻であふれていました。父が生涯かけて収集した数は2千体にのぼります。84年、国内唯一の専門美術館を名古屋で開き、91年に現在の伊勢湾近くの高台に移転しました。父は今年5月に逝去しましたが、マコンデ彫刻の奥深さに魅せられた長男の私が2代目館長に就きました。常設展示は約400点、9割以上は触れて鑑賞することができます。

 顔、男性器、片手片足。体の位置関係を無視し、強調したい部分を大胆にデフォルメした「ドボン」はおおらかなエロスを放っているように思います。写実性から離れ、「自由に彫る」というマコンデの精神を象徴する作品と言えるでしょう。第一印象から「ドボン」と父が命名しました。

 枝や幹の曲がりに感性を刺激され、やすりで磨き上げたり、荒々しくノミで削ったり。1本のアフリカ黒檀から生み出される造形に作家の個性が光ります。父は情熱的にマコンデを「でて」いましたが、表情の捉え方や緻密な彫りなど、私は作家の高い技術力に引きつけられています。

(聞き手・島貫柚子)


 《マコンデ美術館》 三重県伊勢市二見町松下1799の4(0596・42・1192)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。千円。原則(火)休み。

みずの・まこと

館長 水野誠さん

 みずの・まこと 1970年愛知県生まれ。三重大学工学部建築学科卒業。2023年から現職。

マコンデ美術館

https://museum.makonde.jp/

(2024年7月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)