九州初の公立の現代美術館として2002年に開館した当館は、熊本の作家や国内外の20世紀以降の作品の調査、収集をしています。特徴的なのは、設計の段階から館に組み込まれた四つの恒久展示。企画展を除き、館内のほとんどが無料で楽しめるのも魅力です。
館のシンボルである「ホームギャラリー」に設置された大きな本棚。旧ユーゴスラビア出身で、パフォーマンスアートの母と呼ばれるマリーナ・アブラモビッチの「Library for Human Use」は恒久展示のひとつです。ただの本棚ではなく、棚の間に座ったり、中心にぽっかりと空いた空間で寝転がったりすることができます。
アブラモビッチは幼少期から狭い場所で本を読むのが好きで、懐中電灯を持って食器棚で読書をしていたそうです。座れる空間も横になれる空間も、大きさはぴったり1人分。ここで読書する人を見ると、誰もが自然と1人の世界を築けているように思います。
本はとてもコンパクトなものですが、作者の考えや伝えたいことが詰まった一つの世界と言って差し支えないでしょう。それが何千と並んでいる様は、ものすごい数の世界の集合体とも言うことができます。この本棚に入っている本は約6千冊。アート系を中心に、民俗学、食、漫画なども選書しています。
たくさんの本に挟まり、じっくりとその世界に溶け込む……。この本棚の中で、利用者がアブラモビッチと同じ体験をできたら、という思いで制作された作品です。
天井にはジェームズ・タレルの作品が設置され、アートワークが共存しているのも特徴的です。アートと出会う空間でありつつも、それに限定されない多目的な場所。誰もを受け入れて、自由に使えるところが唯一無二だと思います。
(聞き手・笹本なつる)
《熊本市現代美術館》 熊本市中央区上通町2の3(☎096・278・7500)。午前10時~午後8時(展覧会入場は30分前まで)。入館無料。原則(火)、年末年始休み。企画展「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」は1300円。9月23日まで。
学芸員 岩崎美千子さん いわさき・みちこ 埼玉県出身。学習院大学大学院修了。2019年から現職。 |
熊本市現代美術館