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松岡美術館

彩り豊かに 釉薬がかける魔法

「三彩鳳首瓶」 唐時代 
 陶磁器が放つ美しいつやと色彩。これは、うわぐすりとも呼ばれる釉薬(ゆうやく)がもたらすものです。中国の陶磁器は、釉薬を発展させることで多彩な表現方法を獲得してきました。
 
 現在開催中の「中国陶磁展 うわぐすりの1500年」では、後漢から明までの47点を展示し、釉薬の装飾的役割を紹介しています。
 
 中国では釉薬を今から約3500年前には使っていたと考えられています。焼くと溶けてガラス質の膜になり、成分や焼成温度など、様々な条件の違いで光沢や色彩、質感が変化します。
 
 唐時代に作られた「三彩鳳首瓶」(さんさいほうしゅへい)は、「唐三彩」と呼ばれる陶器です。低い温度で溶ける鉛釉(えんゆう)に、色を付けるための呈色剤(ていしょくざい)を加えた様々な釉薬をかけ分けています。
 
 眼光鋭い鳳凰(ほうおう)をかたどった水差しの表面は、酸化鉄が生んだオレンジ色と酸化コバルトによる藍色に、2色が混ざった深い緑色も加わって、彩りも華やかに。釉薬が見事な装飾となっています。この色彩美が唐三彩の魅力です。
 
 酸化コバルトは西方由来のもの。東西の文化交流が盛んだった唐時代をしのばせる作品でもあります。
 
 時を経て、宋時代に全盛期を迎えたのが中国を代表する「青磁」です。唐三彩と異なり、高温で溶ける灰釉(かいゆう)を用いています。窯内の酸素を減らして焼くことで、釉薬などの鉄分から青みが引き出されて、青緑や薄緑、オリーブグリーンなどの青磁特有の色合いを生み出します。
 
 金~元時代に作られた「澱青釉紅斑杯」(でんせいゆうこうはんはい)は、当時の名窯の一つ「鈞窯」(きんよう)のものです。焼き方は青磁と同じですが、ケイ酸とリンを多く含む澱青釉により、青磁よりも乳濁した青色になるのが特徴です。その上にかけられた紫紅釉(しこうゆう)の赤紫とのコントラストは、まるで星雲を見ているかのようです。
 
 唯一無二の釉薬の表情の違いを楽しんでください。
 

(聞き手・佐藤直子)


  《松岡美術館》東京都港区白金台5の12の6(☎03・5449・0251)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。1400円。原則(月)(祝日の場合は翌平日)、展示替え期間、年末年始休み。「中国陶磁展 うわぐすりの1500年」は来年2月9日まで。

 

▼松岡美術館 松岡美術館

 

学芸員・高橋美里さん たかはし・みさと 立教大学文学部史学科卒業。2022年から現職。

 

 

(2024年11月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)