前衛芸術家の草間彌生さん(1929年生まれ)は、出生地の長野県松本市を28歳で飛び出し、単身渡米しました。生家に近い当館は、草間さんの作品を約400点所蔵しています。
来館者を出迎える「幻の華」は、2002年の当館開館に合わせて制作された野外彫刻です。5本のチューリップが勢いよく咲き誇ります。故郷への愛情が詰まった彫刻作品だと受け止めています。
注目したいのは「水玉」が描かれた花弁や葉と、「網目」が張り巡らされた茎。草間さんの代表的なモチーフが凝縮されています。
カラフルな色彩を維持するため、毎年、大規模な清掃をし、数年ごとに全面的に塗り直しています。いったん白地にしてから彩色するこだわりようです。高さは10メートルを超え、草間さんの野外彫刻で世界最大級の作品です。
種苗業を営む生家は草花にあふれ、幼少期から好んだ絵の題材となってきました。生家近くの河原の風景や、渡米時の機中から目にした大海原の輝きなど、心に浮かぶイメージを集約したそうです。
草間さんは幼時から幻覚や幻聴を体験し、それらを繰り返し描き続け、いつしか水玉、網目の表現を見いだします。
09年から制作が始まった「わが永遠の魂」シリーズでは、800枚を超す多作ぶり。「果てしない人間の一生」はその1枚です。
大きなキャンバスには、水玉や人の横顔、アメーバのような物体が所狭しと描きこまれています。下描きもせずに、寝かせたキャンバスの周囲を自ら回りながら絵筆を走らせ、数日で完成させました。
自分の思いをキャンバスに表そうとすると「手が勝手に動いていく」そうです。わき出るアイデアを描くうちに作品ができる草間さんは、今も創作意欲にあふれています。当館で草間さんの「故郷」と「永遠」を感じてほしいと思います。
(聞き手・鈴木麻純)
《松本市美術館》 長野県松本市中央4の2の22(☎0263・39・7400)。[前]9時~[後]5時(入館は30分前まで)。原則[月]休み。410円(4月以降は800円)。「果てしない人間の一生」は6月15日(予定)まで展示。
松本市美術館 https://matsumoto-artmuse.jp/
![]() 学芸員 渋田見彰さん しぶたみ・あきら 長野県出身。東京造形大学卒業。在学中から創設立準備に携わる。2002年から草間彌生さんの常設展示を担当。 |