大阪・関西万博が始まりました。世界中の人びとがアイデアを共有し学び合うように、日本美術も異文化交流から生み出された作品がたくさんあります。
和歌山県で出土した陶器「三彩蔵骨器」は、中国・唐と日本の技術を掛け合わせた作品です。
8世紀、唐から日本に陶器「唐三彩」がもたらされました。当時日本人は、朝鮮半島から伝わった緑色の釉薬(ゆうやく)を使う技術を習得していましたが、緑だけでなく、褐色や藍色など多彩な色で装飾された唐三彩に魅了され、「奈良三彩」を誕生させました。
この陶器は、緑に加え、白、褐色がまだらにかけ分けられ、濃淡のコントラストがとても美しいです。形は日本の須恵器にみられる薬壺形(やっこがた)。唐では主に墓の副葬品に使われていましたが、日本では仏具や祭祀(さいし)に用いられることが多く、本品は骨つぼでした。
政治や文化の中心だった唐を手本としながらも、日本の生活様式に合わせてアレンジする柔軟性の高さが垣間見える作品です。
時は下って、1900年のパリ万博への参加を機に編纂(へんさん)されたのが、官製美術史「Histoire de l'Art du Japon」です。海外での葛飾北斎らの浮世絵ブームを受け、「日本にも体系的な美術史がある」とアピールするために作られました。
本の中で、初期の美術の「彫刻」として紹介されたのが、「埴輪(はにわ)」でした。木像など彫像の起源とする荒唐無稽さに驚きましたが、人物をかたどったようなものが必要だったのでしょう。日本美術を何とか世界水準にせねば、という使命感を感じます。
掲載された作品ではありませんが、「京博のアイドル」として親しまれているのが「埴輪 鍬(くわ)を担ぐ男子」です。腰に太刀、上着とズボンを身に着け、農作業を統率する人物と考えられています。涼やかな表情でくわを担ぐ姿が肩にジャケットをかけているよう。クールなたたずまいが魅力です。
「彫刻」という不思議な紹介をされた埴輪ですが、今では海外の人たちを魅了しています。
《京都国立博物館》 京都市東山区茶屋町527(☎075・525・2473)。午前9時半~午後5時(金曜は~午後8時、入館は30分前まで)。原則月曜休み。大阪・関西万博開催記念特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」は19日土曜から(期間中は午後9時~午後5時半、金曜は~午後8時、入館は30分前まで)。2千円。
京都国立博物館 https://www.kyohaku.go.jp/jp/
特別展「日本、美のるつぼ」 https://rutsubo2025.jp/
![]() 考古室長 石田由紀子さん いしだ・ゆきこ 奈良県出身。立命館大学大学院修了。専門は縄文土器と瓦。2004年から奈良文化財研究所で発掘調査など担当。22年から現職。 |