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箱根ラリック美術館

独創的ジュエリー 先見性きらり

コサージュブローチ「バラ」1902~04年ごろ 縦7×横13センチ

 フランスを代表するアールデコの旗手、ルネ・ラリック(1860~1945)は、香水瓶や室内装飾などのガラス作品で知られています。ガラス工芸家に転身したのは50代前半。最初のキャリアはジュエリー作家でした。1900年のパリ万博では、当時流行していたアールヌーボーのジュエリーでグランプリを受賞したほどです。

 その数年後に作られたコサージュブローチ「バラ」は、ガラスの花びらにダイヤモンドが敷き詰められた枝、中央にはシトリンが輝きます。19世紀末以前、ジュエリーの価値は宝石で決まっていました。しかしラリックは高価な宝石に頼らず、ガラスや獣角など、あまり使われていなかった素材を採り入れ、デザインで付加価値を与えました。

 主役のバラにガラスを大胆にあしらった様子からは、後にガラス工芸に向かう兆しが見えます。ダイヤモンドはガラスとシトリンの引き立て役に徹していて、ラリックらしさを感じられる作品です。

 ジャポニスムの影響を色濃く感じるペンダント「フジ」の葉やツル、花びらは全てガラスを主素材とする七宝です。花の上には、個性を出すためにラリックが好んで使ったバロック真珠が置かれています。葉の部分にはプリカジュールという技法が用いられており、金属の下地がないため、ステンドグラスのように透けてみえます。

 アールヌーボーが下火になると、ラリックは大量生産の時代を見越してガラス工芸へと転換。12年以降は一点物のジュエリー制作から距離をおきます。

 彼のジュエリーを数多く収蔵している当館ですが、11月末まで開催中の「ルネ・ラリックのファッション図鑑」展では、従来にない挑戦をしています。杉野服飾大学の協力で20世紀初頭のドレスのシルエットを再現。アクセサリーやバックルなど、収蔵品でトータルコーディネートしました。普段は平置き展示されているジュエリーが、当時どのように使われていたかを見ることで、彼が流行を敏感に察知して作品づくりをしていたことが分かっていただけるかと思います。

(聞き手・中山幸穂)


 《箱根ラリック美術館》 神奈川県箱根町仙石原186の1(☎0460・84・2255)。午前9時~午後4時(入館は30分前まで)。1500円ほか。「ルネ・ラリックのファッション図鑑」展は11月30日まで。原則第3(木)休み。

◆箱根ラリック美術館:https://www.lalique-museum.com/

 

はやま・ゆか

学芸員 葉山結花さん

 はやま・ゆか 千葉県出身。法政大学文学部史学科卒業。2020年から現職。24年の展覧会「ラリック×ダンス」などを企画。

(2025年5月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)