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千葉市美術館

歌麿の光る技 繊細さ宿る色や線

喜多川歌麿 「潮干のつと」から 1789年

 ゴッホやモネにも影響を与えた浮世絵は、今も世界で愛されています。千葉市が浮世絵師・渓斎英泉のコレクションを取得したのを機に当館の設立が決まり、1995年に開館しました。30周年を迎える今年は様々な企画を展開し、「江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ」は浮世絵をテーマにしています。

 「浮世絵の黄金期」の天明・寛政期(1781~1801年)に活躍した絵師の一人が、開館時の記念展で取り上げた喜多川歌麿です。駆け出しの頃、斬新な発想で注目を集めた版元・蔦屋重三郎と出会い、滑稽や風刺を趣旨とした「狂歌絵本」の絵を担当します。その一冊が1789(寛政元)年刊行の「潮干のつと」です。

 貝をテーマにした絵本の中で特筆したいのは、砂浜に並ぶ貝殻を描いたページです。貝の配置や、白、ピンク、赤への移り変わりに心地よいリズム感を感じます。一部の貝には雲母を砕いた粉を用いた雲母摺(きらずり)が施され、見る角度によりキラッと光る豪華な版画です。初摺に近いため、歌麿が意図した線づかいや色彩を堪能できます。

 「潮干のつと」は歌麿の名が広く世に知られるきっかけとなった作品の一つ。当館では歌麿が絵を描いた狂歌絵本を5タイトル所蔵しています。間近で繊細な表現を味わってみてください。

 後に「美人大首絵」で一躍有名となった歌麿は、肉筆画を依頼されるようになります。一度に何枚も摺れる版画に対して、一点ものの肉筆画は貴重です。

 1794~95(寛政6~7)年ごろに制作した肉筆画「納涼美人図」は、江戸を訪れた新潟旧家の主人から受注したと言われるもの。うちわで涼む遊女の黒い薄衣からは肌やじゅばんが透けて見え、あでやかでしっとりした雰囲気。プライドを感じさせる凜(りん)とした表情に、最盛期の歌麿の自信も垣間見える作品です。

 房州(千葉県南部)出身で当館も収集する「浮世絵の始祖」菱川師宣の作品を始め、歴史をたどりながら珠玉の名品をお楽しみください。

(聞き手・増田裕子)


《千葉市美術館》 千葉市中央区中央3の10の8(☎043・221・2311)。午前10時~午後6時(金土は~午後8時、入館は30分前まで)。原則第1・3月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)、メンテナンス日休み。300円。今企画展は7月21日(月)(祝)まで(「潮干のつと」の当該ページは6月24日火曜から)。1500円(金土の6時以降は半額)。同チケットで「日本美術とあゆむ」「千葉市美術館コレクション選」も観覧可。

◆千葉市美術館:https://www.ccma-net.jp/

 

そめや・みほ

学芸員 染谷美穂さん

 そめや・みほ 栃木県出身。慶応義塾大学大学院修了。浮世絵に興味を持ち専門に。しもだて美術館などを経て、2020年から現職。

(2025年6月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)