軽井沢の緑豊かな地にたたずむ「リヒター・ラウム」は、現代美術家・ゲルハルト・リヒター(93)のドイツのアトリエを可能な限り再現した空間です。約30年間アトリエに通った記憶と記録をもとに図面を描き、現地に近づけて設計しました。
「ストリップ・スカルプチャー・カルイザワ」は、この地のために作られた彼の世界初の屋外立体作品です。過去の抽象絵画の1点をデジタルスキャンして再構成した「ストリップ・ペインティング」の手法を用いたものです。元の絵画を縦に細かく分割した一片(ストリップ)を鏡映しにし、それを横方向に繰り返していくことで、新たにしま模様のような平面を再構築しています。
表面を覆うガラスと相まって、リヒターの集大成と言ってもよい作品になりました。8面を組み合わせた十字形で、時間帯や季節、天候により色の印象が変わります。春には桜、秋には紅葉がガラスに映り込んで周囲の自然と一体になる姿は、時間を忘れて眺めていたくなります。
「アブストラクト・ペインティング(939―6)」は、アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所の写真をもとに描かれた「ビルケナウ」の完成後の作品です。大胆な筆致や色彩を何層も重ねた絵の具の厚みなど、これまでにないほど、感情が込められた力強い油彩画です。何十年と葛藤し表現した「ビルケナウ」を経て、「もっと自由に描いてもいいんじゃないか」と、リヒターは話してくれました。見ていると、生きる喜びが感じられます。
油彩画、写真、ガラスなどあらゆる素材で表現するリヒター。2017年に油彩画の断筆宣言をしましたが、90歳を超えた今もなお絵画の可能性を追求し続けています。予備知識がなくても、作品の前に立つと何かを感じるはず。様々な人に訪れてもらえる場所になることを願っています。
(聞き手・片山知愛)
《リヒター・ラウム》長野県軽井沢町軽井沢1323の1475(☎0267・48・6080)。開館時間・休館日はシーズンごとに異なるため、公式サイト(https://www.richterraum.jp/)で確認を。1200円。公式サイトから要予約。
![]() 代表 和光清さん 1959年東京生まれ。東京造形大学卒業。92年に「ワコウ・ワークス・オブ・アート」を設立。2023年、「リヒター・ラウム」をオープン。 |