相模湾に突き出た真鶴半島は、溶岩の硬い岩盤に生き物が固着して暮らす、生物多様性に富んだ環境です。当館では地元出身の貝類研究家、故遠藤晴雄氏が昭和期に集めた4500種5万点の貝類標本を収蔵しています。
館の自慢は、生きた化石と呼ばれるオキナエビスガイのコレクション群。遠藤氏が、国内外で当時見つかっていた約30種のうち27種を集めました。原始的な体の構造をとどめ、殻の入り口に呼吸や繁殖のためのスリット(切れ込み)が見られます。中でも「リュウグウオキナエビス」は美しい火炎模様とサイズの大きさから人気が高く、360万円の高値で取引された例があったほどです。
展示は、真鶴の貝から日本全国、そして世界へと視点を広げていく構成です。真鶴エリアでご紹介したいのは、手のひらよりも大きなマダカアワビの貝殻。珍しい種ではありませんが、餌となる海藻が減った今、このサイズを自然界から手に入れることはほぼできません。
貝類は食卓に並ぶ種類のほか、一般的に知られている以上に多種多様。標本として後世に残すことは、博物館の重要な仕事です。展示品は虫眼鏡でやっと見える日本最小の巻き貝のミジンワダチガイ、小笠原固有種のカサガイ、猛毒を持つアンボイナガイとさまざま。花のようなかれんな形のカセンガイも。自然界が生んだ造形は本当に不思議で仕方がありません。恐らく全てが最適化されているわけではないのです。
人が磨いたかのようなツヤをもつタカラガイの仲間たちも人気の貝です。漢字の「貝」はタカラガイの形から作られました。館蔵品から一点選ぶなら、その希少性からサラサダカラ、オオサマダカラと共に世界三名宝と言われる「シンセイダカラ」でしょう。タカラガイは古来装身具にも使われてきましたが、いにしえの人々と美しさを共有するロマンがあります。
(聞き手・中村さやか)
《真鶴町立遠藤貝類博物館》 神奈川県真鶴町真鶴1175(☎0465・68・2111)。[前]10時半~[後]3時半(入館は30分前まで)。300円。年末年始休み。
![]() 学芸員 栢沼勇魚さん かやぬま・いさな 2000年、神奈川県真鶴町生まれ。北里大学海洋生命科学部卒。水族館勤務を経て3年前から現職。館が取り組む海洋教育活動に注力。 |
真鶴町立遠藤貝類博物館