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浜松市美術館

ガラス絵の輝き 異国の香り

「和蘭人男女逍遥図」 伝荒木如元 江戸時代後期 44.7×35.4センチ

 透明な板ガラスの裏側に描くガラス絵は、16世紀以降ヨーロッパで盛んに制作されました。ガラスを通して見る絵画は、鮮やかな色彩が際立つのが魅力。経年劣化しにくいのも特徴です。

 ヨーロッパや中国から日本に広く伝わったのは江戸時代。海外の窓口だった長崎で、西洋人や洋館、帆船などを描いた異国情緒漂う作品が多く生まれました。
 「和蘭(オランダ)人男女逍遥(しょうよう)図」は、長崎の絵師荒木如元(じょげん)(1765~1824)の作と伝わります。如元は、長崎奉行所で輸入絵画の鑑定、模写などを担った唐絵目利(からえめきき)の養子として西洋絵画を学びました。ガラス絵も習得したとされ、洋画や書物を参考に描いたと言われます。
 ガラス絵の技法は複雑。紙やカンバス画と違い、鑑賞面の裏側に描きます。絵の具をのせる順序は、最も表に出る部分から。例えば顔のパーツや作者のサインを最初に描き、最後に背景を塗るのです。緻密(ちみつ)な計算が求められる上、本作の描写は細やかで、裏から見ても表と差がないほど絵の具を薄く塗り重ねています。
 当時貴重だった板ガラスに、複雑な技法で異国の風景を描くなんて、描き手は試行錯誤したことでしょう。それでも、ガラスの輝きや色彩のみずみずしさが人々を魅了し、日本でも作られるようになりました。
 ガラス絵が江戸に伝わると、浮世絵風のモチーフが描かれるようになります。「簪(かんざし)を挿す女」は、民藝(みんげい)運動にも参加していた浜松市の医師、内田六郎(1892~1974)が1926年ごろに初めて購入したガラス絵です。日本では舶来品から民芸品へと変わったガラス絵を、内田は長年にわたり収集しました。優れた作品との出会いを喜びにしていたようです。
 内田の寄贈品をコレクションの核とする当館は、国内外のガラス絵400点を所蔵しています。開催中の「大ガラス絵展」では所蔵品の中から、主にヨーロッパや中国、江戸~明治期の日本の作品を展示しています。

(聞き手・木谷恵吏) 


 《浜松市美術館》 浜松市中央区松城町100の1(☎053・454・6801)。[前]9時半~[後]5時(入館は30分前まで)。原則[月]休み。2点は「大ガラス絵展―波濤(うみ)をこえ、ガラスにきらめくファンタジア―」(11月3日まで)で展示中。1800円。

 

ますい・あつこさん

  学芸員 増井敦子さん

 ますい・あつこ 浜松市出身。2014年から同館に勤務。専門は日本美術。「大ガラス絵展」や「遠州の民藝展」などを担当。

(2025年9月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。入館料、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)