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横尾忠則現代美術館

森羅万象 混ぜて生まれる異界

「SENECA」 2018年

 1960年代からグラフィックデザイン界の寵児(ちょうじ)として活躍していた横尾忠則は、80年、ニューヨークで見たピカソ展に衝撃を受け、突如画家に転身しました。人物から死後の世界まで森羅万象に興味を持ち、それらを組み合わせて一つの作品にするのが彼のスタイルです。

 そんな横尾の辞書を作ったら面白いのでは、と企画したのが、31日から始まる「大横尾辞苑(だいよこおじえん)」展です。作品をテーマ別に50音順とアルファベット順に並べ、関心の深さが分かるエピソードとともに紹介します。

 海辺に座る謎の女と、画家フランシス・ピカビアが描いた横たわるヌード女性の模写。二つを掛け合わせた「SENECA」は、「謎の女」シリーズの1点です。謎の女の目だけが点滴の筒で隠され、想像力をかき立てます。

 「謎の女」の発端は、故郷の特産「播州織」を輸出する箱のラベルでした。そこに描かれた外国人女性を模写し、魅力的な表情をトイレットペーパーなど様々な物で覆います。顔を隠す表現は、尊敬する画家マルセル・デュシャンの作品から着想を得たのでしょう。

 点滴は病院マニアの横尾の象徴です。「自分とは」を考え続ける彼にとって、体の不思議を知ることができる病院はうってつけの場所で、過去には入院中に創作したこともありました。謎の女の太ももの前を通る点滴チューブには哲学者セネカの格言「狂気がなければ天才ではない」と書かれています。

 「アストラルタウン」は、横尾の頭文字から名付けた代表作「Y字路」シリーズで、神智学(しんちがく)と掛け合わせた作品です。縦向きの筆遣いが特徴的。ぼかして描いた青黒い町は、幽体離脱する精神(アストラル体)がさまよう死後の世界を表したのでしょう。シリーズの原点は故郷の暗い三差路をストロボ撮影した写真。2000年から200点以上描かれ、本作は公開制作されました。

 当館は横尾が兵庫県へ寄贈・寄託した作品をもとに12年に開館。絵画やグラフィック、版画など約3千点を所蔵しています。刺激的な横尾の世界を味わってみてください。

(増田裕子)

 

 

 《横尾忠則現代美術館》 神戸市灘区原田通3の8の30(☎078・855・5607)。午前10時~午後6時(入館は30分前まで)。800円。月曜日休み。(2月23日月祝、5月4日月祝は開館、2月24日火は休館)。企画展は5月6日水休まで。

やまもと・あつお
館長補佐兼学芸課長 山本淳夫さん
 
 やまもと・あつお  京都府出身、京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。専門は近現代日本美術。芦屋市立美術博物館、滋賀県立近代美術館などを経て2012年から現職。
(2026年1月27日、朝日新聞夕刊欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)