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鶴岡市立藤沢周平記念館

円熟味とリアルさ 色あせない清兵衛

「たそがれ清兵衛」所収作品の自筆原稿=藤沢周平記念館提供

 「ごますり」「ど忘れ」「祝(ほ)い人(と)」ーー連作短編集「たそがれ清兵衛」は8編それぞれ、特異な物腰や風貌(ふうぼう)、極端な性格ゆえにあだ名をつけられた武士が主人公です。表題作のたそがれ清兵衛は病で伏せる妻の世話のため、家路を急ぐ姿をやゆされていました。


 内紛に巻き込まれるなど主人公は追い詰められますが、人知れず秘めた剣術の腕で切り抜ける。すっと爽快な気分に包まれます。


 江戸時代に生きる下級武士らの哀歓を描いた藤沢周平(1927~97)。「たそがれ清兵衛」はそんな「武家もの」の代表作の一つ。出身地に立つ記念館の来館者アンケートでも好きな作品としてあげる人が多いです。山田洋次監督により、たそがれ清兵衛、祝い人助八など3作品を原作に映画化されました。主演の真田広之さんの姿を覚えている方も多いでしょう。


 藤沢周平が直木賞を受けたのは40代半ば。遅咲きでしたが、旺盛な執筆姿勢で数多くの名作を発表していきます。「たそがれ清兵衛」所収作品は、50代半ばから小説新潮に掲載。円熟味が増し、あだ名のつけ方に映るようにユーモアのセンスを発揮しています。


 開催中の企画展「『たそがれ清兵衛』の世界」では自筆原稿や創作資料など約40点を展示。資料は多彩でリアリティーを付与しようと努めたことがうかがえます。


 会期中、入れ替えながら展示する自筆原稿は、万年筆でつづられ、丸みを帯びた文字がぬくもりを感じさせます。舞台のモデルと言われる庄内藩関連の資料には赤線が引かれ、読み込んでいた様子です。多くの武芸関連の資料がひもとかれ、居合など江戸時代に実在した流派が登場します。


 また、年季の入った木刀は、武家ものに描く剣術を工夫するのに使われたそうです。


 「たそがれ清兵衛」の世界が色あせないのは、現代に通じる人間の感情が描かれているからでしょう。粗末ながら穏やかな暮らしを手放さない。人に軽んじられても品格を失わず、ついに底力を発揮します。私も年齢を重ねるにつれ、趣深く感じています。

(聞き手・木元健二)


 《鶴岡市立藤沢周平記念館》 山形県鶴岡市馬場町4の6(☎0235・29・1880)。午前9時~午後4時半。水(祝休の場合は翌平日)休み。320円。企画展「『たそがれ清兵衛』の世界」は5月26日まで。

 

 学芸担当 長村俊太郎さん
 
 ながむら・しゅんたろう  1990年、山形県鶴岡市生まれ。2017年から藤沢周平記念館に勤務。「『蟬(せみ)しぐれ』の魅力」「『海坂藩もの』にみる庄内藩」などの企画展を手がけてきた。
(2026年2月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)