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ヤマザキマザック美術館

変わる社会 印象派への道

カミーユ・ピサロ「ルーアンの波止場・夕陽」 1896年 46.2×55.1センチ

 フランス絵画といえば19世紀後半、美術に変革をもたらした「印象派」が有名ですね。では、いったい何が革新的だったのか。過去の作品と比べればよく分かります。ロココから印象派に至る道筋とその後も含めた約300年間のフランス絵画を収蔵し、歴史を一望できるのが当館の魅力です。

 「ルーアンの波止場・夕陽」は、薄紫から紺色に暮れなずんでいく空の、光と色彩の変化の一瞬を捉えた「ザ・印象派」というべき作品です。筆遣いの細やかさと色の美しさを存分に味わっていただきたい。

 作者は印象派で最年長だったカミーユ・ピサロ(1830~1903)。この作品で特筆すべきは「場所」です。彼は、川の手前にある有名な美しい旧市街ではなく、奥にある新興の工場地帯を題材に選びました。

 当時は工員として農村から都市へ人々がかき集められていました。社会派精神があった彼は、印象派の技法を用いながらリアルな産業の情景を描き残したかったのかもしれません。

 印象派から約100年さかのぼった「メレヴィル庭園の眺め」は、ユベール・ロベール(1733~1808)の作品です。

 朽ちかけた橋といった古代風のたたずまいに、手前を極端に暗くして作為的にスポットライトを当てたような演出など、自然光を描こうとした印象派との違いがわかるかと思います。

 「廃虚のロベール」と呼ばれた彼は、フランス革命前後に活躍し、貴族階級に雇われて庭園デザインも手がけていました。この庭園も彼自身の設計です。

 ロベールが廃虚風情景を人工的に造形したのは、貴族が楽しむための趣向。当時の画家の多くは、自らの意思より上流階級の注文に応じて描きました。しかしフランス革命後に民主主義が根付く中で、画家も自我が芽生え、ピサロのように描きたいものを描くようになってきたのです。年代ごとのサロンの雰囲気をイメージした展示室で見比べていただき、印象派が開花する道のりを実感してください。

(聞き手・中山幸穂)


 《ヤマザキマザック美術館》 

 名古屋市東区葵1の19の30(☎052・937・3737)。[前]10時~[後]5時半([土][日][祝][休]は5時まで、入館は30分前まで)。千円。原則[月]([祝][休]の場合は翌平日)、年末年始、展示替え期間休み。

◆ヤマザキマザック美術館:https://www.mazak-art.com/l

 

よしむら・ゆうこ

主任学芸員 吉村有子さん

 よしむら・ゆうこ 福島県立美術館勤務を経て、2012年から現職。専門はフランス近代美術。

(2026年3月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)