岡田謙三(1902~82)は、パリ・東京・ニューヨークの三つの都市を拠点に、時代のうねりの中で大胆に画風を変容させ続けた画家です。
戦前はパリで西洋美術を学び、帰国後は東京都目黒区にアトリエを構え、女性像などで人気を博しました。戦後に48歳で渡米した際は、ニューヨークで流行する抽象表現主義が理解できず苦悩しましたが、やがて、淡い色合いを組み合わせる独自の作風を確立。奥深い味わいやほのかな余情といった日本特有の美意識「幽玄」を礎とする「ユーゲニズム」を提唱し、ベネチア・ビエンナーレなど国際的な展覧会で高く評価されていきます。
「間隔」は、すでに米国で名声を得た50年代後半の作品です。縦2メートルを超える大画面には、多様なモチーフが絶妙な距離感で配置され、静けさと緊張感が共存するさざ波のような感覚を呼び起こします。
特筆すべきは画面を占める白の表現。同じ白でも、麻のキャンバス地の天然の色を残したり下層に塗った別の色を絶妙に透かしたり。よく見ると、大胆さと緻密(ちみつ)さが共存した質感は重層的で複雑です。肉眼で味わっていただきたいですね。
岡田の活動を30年以上支えた画商ベティ・パーソンズは、「ユーゲニズム」を「奥深い静寂」と理解しました。岡田が子どもの頃に触れた古典芸能や折り紙遊びといった日本の記憶に立ち返ったことでたどり着いた手法です。
「雲と子供」は、油絵なのに紙のコラージュに見える、抽象の中に具象を溶け込ませた作品です。鮮やかな色彩を大胆に用いた構成が際立ちます。この頃、岡田は紙を貼って構図を練る手法を好み、色面の重なりや紙をちぎった跡を思わせる白い輪郭線には、千代紙を破って遊んだ思い出がうかがえます。
岡田自身は「抽象画家」と名乗ったことはなく、晩年まで具象画も描き続けました。抽象・具象の区分にとらわれない柔和な姿勢が生んだ、静謐(せいひつ)さの中にある力強い表現を、ぜひ会場で楽しんでください。
(聞き手・片山知愛)
《目黒区美術館》 東京都目黒区目黒2の4の36(☎03・3714・1201)。[前]10時~[後]6時(入館は30分前まで)。[月]休み(5月4日は開館、7日休館)。「間隔」「雲と子供」は企画展「岡田謙三 パリ・目黒・ニューヨーク」で展示中。5月10日まで。900円。
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学芸員 誉田 あゆみさん こんだ・あゆみ 1993年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了、西洋近代美術史専攻。川崎市市民ミュージアムを経て2021年から現職。現在は、西洋と日本の美術における影響関係や、生活空間の中の芸術について研究を深めている。 |
目黒区美術館