笑みを浮かべたような顔つき、頭の左右から伸びた腕。愛らしくもある「挙手人面土器」は、極めて珍しい考古遺物です。古墳時代の器に、人体を表現した類例がほとんどないからです。
挙手人面土器は1947年、現在の長野市内で発見されました。大きな石の下から高坏(たかつき)や壺(つぼ)とともに出土したという状況から、ここで何らかの祭祀(さいし)が行われたとみられます。
古代の人々は、恵みと災いをもたらす自然環境に「神」を見いだし、捧げ物をして祈る祭祀を行ってきました。古墳時代になると、ヤマト王権が各地の祭祀や葬送儀礼を統合。各地の祭祀遺跡や古墳からは共通の遺物が出土しています。祭祀遺跡はのちの神社の成立にもつながるため、当館が基盤とする「考古」と「神道」のテーマを併せ持っています。
共通する遺物の一つに生活道具や農工具の模造品があります。人々が使う実物とは一線を画し、石や鉄などで作ったミニチュアです。茨城県大洗町の鏡塚(日下ケ塚)古墳から出土した石製・鉄製模造品は、鎌、おの、のみなどが表現されています。
祭祀の統合が進んだ古墳時代、なぜ特殊な挙手人面土器が作られたのか。発掘当初から注目したのが、草創期の国学院大考古学研究室を牽引(けんいん)した大場磐雄(1899~1975)。数多くの祭祀遺跡を調査し、神道考古学を提唱しました。
大場は、「とんでもない物がとび出して来た」「40年間に近い考古行脚でも、はじめて見る珍物」と驚きを書き残しています。向かって右側の突起の先に手指のような造形があることから手を挙げた姿と考え、喜びや驚きのポーズかと想像を巡らせました。底のもみ痕から新穀の祭りに使ったのではとも推測しました。
何を表現したのか、何に使われたのか。80年を経た今も分からないことばかりですが、だからこそ研究が広がる可能性を秘めている。考古学の面白さを伝えてくれます。
(聞き手・木谷恵吏)
《国学院大学博物館》 東京都渋谷区東4の10の28(☎03・5466・0359)。午前10時~午後6時(入館は30分前まで)。無料。不定休。2点は常設展示。
学芸員 尾上周平 おのえ・しゅうへい 2019年、国学院大学大学院博士課程後期単位取得退学。専門は考古学。行政の埋蔵文化財業務などを経て20年から現職。収蔵庫や展示室など館内の環境管理を担当。 |
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