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箱根ガラスの森美術館

「点彩扁瓶」 16世紀

 イタリア・ベネチアのムラーノ島で生み出されるベネチアングラス。職人たちが初めて見る美しいものをガラスで表現したい、という情熱と探求心で発展しました。

 焼き物の白磁と見まごう「点彩扁瓶(てんさいへんびん)」(16世紀)は、磁器を模倣した「ラッティモ」と呼ばれるガラス製品です。動物の骨を焼いて粉にした骨灰や酸化スズなどを混ぜて、ガラスを乳白色に濁らせています。

 白磁は13世紀にベネチア商人マルコ・ポーロが中国から持ち帰り、欧州の人々に衝撃を与えました。しかし当時の欧州には磁器の製造技術がなかったため、王侯貴族の要望に応えるべく、ムラーノ島の職人が15世紀にラッティモの製法を発明したとされます。

 この作品は、ひだのような装飾に、ガラス質の顔料で絵付けして焼く「エナメル彩」が鮮やか。交易のあったイスラム美術へのあこがれを感じます。

 「ラッティモ」の発明は、後にベネチアングラスの代名詞となる、レース文様をガラスに封じ込めた「レース・グラス」の誕生に貢献しました。

 16~17世紀、ベネチアのガラス職人の技術探求に刺激を与えたのが、「驚異の部屋」と呼ばれた博物陳列室です。当時の王侯貴族の間では、東方交易でもたらされる天然石や工芸品など、未知の品の陳列室作りが流行。一部の人々に公開されました。展示されていた珍品のことを見聞きした職人が触発され、人々を驚かせる技法を生み、やがてその作品も驚異の部屋に陳列されるようになったのです。

 同じ頃に作られた「マーブル・グラス・デカンター」は、貴族に人気だった宝石を表現したものです。ガラスに金属を混ぜて、赤、青、黄色のガラスをつくり、一緒に熱で溶かしてまだら模様にします。面白いのが、光に透かすと色が赤く変わること。「マーブル・グラス」の技術は、ベネチアングラスの秘法の一つになりました。

 約1千点のベネチアングラスを収集する当館では、企画展「ヴェネチアン・グラスでみせる驚異の部屋~世界の創生~」を開催中。「自然」「人工」「異国」をテーマに、それぞれから着想を得た作品を中心に約100点を紹介しています。中世貴族の館のような当館で、黄金期の作品を堪能してください。

(増田裕子)

 

《箱根ガラスの森美術館》 神奈川県箱根町仙石原940の48(☎0460・86・3111)。午前10時~午後5時半(入館は30分前まで)。1800円。企画展は7月12日まで。

箱根ガラスの森美術館公式サイト:https://www.hakone-garasunomori.jp/

さいとう・あやか
学芸員 斎藤彩香さん
 
 さいとう・あやか 千葉県出身、東海大学文学部卒業。専門はオリエント史。2009年から現職。
(2026年6月9日、朝日新聞夕刊欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。)