華やかな装いをした4人の天使は、何を祈っているのか――。「祝福の天使」は、英国を代表する「チャールズ・イーマー・ケンプ工房」が19世紀に制作し、教会に飾られていたステンドグラスです。
上級天使がひざまずいていることや、背景にイエス・キリストが生まれたとされるベツレヘムらしき風景があることから、天使たちは恐らくイエスの降誕を祝福しているのでしょう。所在は不明ですが、きっと2枚の作品の間には、イエスの降誕が描かれたパネルもあったはずです。
天使の顔など、よく見ると点描のように見える部分があります。用いられたのは、酸化鉄が主成分の絵付け用顔料(グリザイユ)を水で溶いて描き、乾く前にブラシなどでたたく技法で、これをとても淡く描くのがケンプ工房の特徴なのです。
薄暮になると、泣けてくるような絶妙な表情を見せてくれます。天使たちはイエスの降誕を喜びながらも、十字架にかけられるイエスの運命を哀れんでいるはず。そんな複雑な思いがこの表情に表れていますね。
工房を開いたケンプは、27歳からステンドグラスの見習い修業を始め、1866年ごろに自らの作風を求めて独立しました。その後は本作のように輪郭をハッキリと描くようになります。「祝福の天使」は彼が自らの作風を見つけ出し、到達した境地です。
ケンプが修業した「クレイトン&ベル工房」作の「受胎告知」は、マリアの純潔を象徴する白いユリや、開かれたイザヤ書、天使が雲に乗ってくる姿など、この場面に必要な要素が全てそろっています。
天使の羽から座っているマリアまでの流れを1本のラインに収め、見る人の視線の動きを計算した構図も見事です。
当館では19世紀英国のステンドグラスを中心に、70点以上の作品を展示しています。光と環境があって完成する芸術の魅力を味わってください。
(聞き手・斉藤梨佳)
《掛川市ステンドグラス美術館》 静岡県掛川市掛川1140の1(☎0537・29・5680)。【前】9時~【後】5時(入館は30分前まで)。500円。原則【月】(【祝】の場合は翌平日)、12月28日~来年1月1日休み。今年の8月4日~16日は無休。
掛川市ステンドグラス美術館 https://k-kousya.or.jp/stainedglass/
顧問 志田政人さん しだ・まさと 1958年、秋田市生まれ。フランス国立高等工芸美術学校ステンドグラス科卒。2015年から同館顧問。小樽芸術村ステンドグラス美術館顧問も兼任。ステンドグラス作家で研究家としても活躍。 |