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サントリー美術館

「織部洲浜形手鉢」 桃山時代 17世紀 幅25.0×奥行き19.5×高さ28.1センチ

 三つの山を並べたような形に、弓なりに高く渡した把手(とって)。落ち着いた赤と鮮やかな緑。全体が2色の絶妙なバランスによって構成されています。

 「織部洲浜形手鉢(おりべすはまがたてばち)」は「織部焼」です。大胆な色使いと斬新な文様、発想豊かな器形を特徴とする織部焼は、17世紀初めに現在の岐阜県東濃地域で生産されました。

 手鉢の身には2種類の土が使われています。半身には赤い土を使い、そこに白泥と銹絵(さびえ)でつるし柿や花、輪、しまなどの文様が大きく描かれています。もう半身と把手には白い土を使い、上に掛かる緑の釉薬(ゆうやく)は鮮やかに発色し、溶けて勢いよく流下しています。

 半分ずつ異なる意匠を用いることを「片身替(かたみが)わり」といい、桃山時代の小袖や蒔絵(まきえ)にも見られるデザインです。手鉢の形は洲浜形。めでたい宴の会場に、松竹梅や鶴亀などの縁起物を飾り付けた洲浜台が元であると考えられます。

 この鉢は、食器として使われました。江戸時代、茶の湯文化の中で親しまれた懐石は、器を季節や料理に合わせて楽しんでいたため、多様な装飾技法やデザインを生み出す原動力となっていたのでしょう。

 「白泥染付金彩薄文蓋物(はくでいそめつけきんさいすすきもん)」は、江戸時代中期の京の名工・尾形乾山の代表作の一つです。蓋は強く丸みを帯び、満月のようにも見えます。その表面を覆いつくすのはススキです。風にたなびくススキが月光を受けて輝き、そのシルエットが暗がりに浮かび上がっているかのようです。

 一方、蓋裏と身の内側は、白化粧の上に染付で花襷(はなだすき)文様が描かれています。蓋の表面は、秋の季節感を演出します。同時に、簡単に想像のつかない意外な文様が蓋の下から現れ、客を驚かせる仕掛けを持った器でもあります。

 開催中の「眼のごちそう 食器」では、吉祥性や季節感、あるいは珍しさや貴重さでもてなしたいという心が読み取れるような陶磁の食器をご紹介します。ぜひ、この機会にご覧ください。

 

《サントリー美術館》 東京都港区赤坂9の7の4東京ミッドタウン ガレリア3階(☎03・3479・8600)。午前10時~午後6時(金と8月29日は8時まで、入館は30分前まで)。1700円。火休み(8月11日は開館)。企画展は8月30日まで。

やすこうち・ゆきえ
副学芸部長 安河内幸絵さん
 
 やすこうち・ゆきえ 福岡県出身、東京芸術大学大学院美術研究科芸術学専攻修士課程修了。専門は工芸史。2008年にサントリー美術館の学芸員となり、24年から現職。
(2026年7月14日、朝日新聞夕刊欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。)