今は山深い秩父盆地ですが、約1700万~1500万年前は「古秩父湾」と呼ばれる温かい海が広がっていました。この地域では、海に生きた生物の化石が数々発見されています。
約2300万~1200万年前に海に生息した海獣「パレオパラドキシア」の全身骨格化石は、当館を代表する所蔵品です。2016年には哺乳類化石として初となる国の天然記念物に指定されました。
謎の多いまま絶滅した哺乳類で、カバやアザラシのようにも見えますが、ゾウやジュゴンに近いとか、サイの仲間の奇蹄類との関係を示す研究もあります。
当館には2体の標本があり、体の骨の大部分がそろっています。背骨や肋骨を観察すると、体重を支えて陸上を自在に歩くより、海の中で暮らしていた特徴が見えてきます。
後ろ足の骨はジュゴンのように退化せず、かなりしっかりしています。あごの様子から、浅い海で海底の貝やゴカイなどを掘り起こして食べていたようです。
近年、岐阜県で見つかった化石は、周囲から120本以上もサメの歯が発見されました。骨にはかまれたような跡も残っており、サメに食べられた可能性が高いと考えられています。
骨格が地層からどんな状態で見つかったか、サメの歯がどのように散らばっていたのか、などを調べることで「最後に何が起きたのか」まで見えてきます。産出状況という証拠を積み上げて「妄想する」。化石研究はその連続です。
博物館の正面には、私が監修した模型があります。「カバに似ている」から脱却し、活動的に水中を泳ぐ姿を再現しました。
もう一つ、メガロドン(巨大ザメ)の脊椎化石は必見です。サメは軟骨魚類なので骨が分解されやすく、化石で残る例は非常に少なく貴重です。
当館は、別に見つかった歯の化石をホオジロザメと比較し、メガロドンの体長を約12メートルと推定しましたが、脊椎化石を用いた海外の最新研究では24メートル級という説も。この脊椎化石からも、新たな体長が導き出せるかもしれません。
化石は単なる昔の生き物の証拠ではありません。発掘状態から大きさや生態などを想像し、進化の歴史を読み解くことができるのです。
(聞き手・見沢康)
《埼玉県立自然の博物館》 埼玉県長瀞町長瀞1417の1(☎0494・66・0404)。午前9時~午後4時半(入館は30分前まで)。200円。月曜(祝休、ゴールデンウィーク、7・8月、埼玉県民の日を除く)と年末年始など休み。
自然担当主任学芸員 北川博道さん きたがわ・ひろみち 2011年、京都大学理学研究科博士課程修了。2012年に埼玉県立自然の博物館自然担当学芸員、25年から現職。専門は古脊椎動物学。特別展「古秩父湾―秩父盆地の海獣の海―」(12日まで)を企画。 |